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パンケーキはボロネーゼになる

同じ研究室の学友と、「美味しいものを食べよう!」というざっくりとした約束をいたしました。
私は芸術系の大学に在籍しており、4年生は卒業制作に年度末を追われるのが通例です。しかし、私と学友は幾分か早く焦り、直前にゆとりが出来てしまいました。
食事を蔑ろにしていた時期を取り戻すためにも、スイーツを食べに行ってもバチはあたらないだろうとなったのです。

本当は街に繰り出してお洒落な店舗を物色したかったのですが、私達が住む街にもやってきた巷を騒がせている新型肺炎に恐れをなし、地元の駅で踏みとどまってしまいました。
運良く、ハワイアンパンケーキの美味しいカフェがあったのでそこに行くことにしました。

さて、真昼なのに冷えきった寒空の下で学友と待ち合わせをし、いざカフェでパンケーキをばと思っていたのですが、メニューを開いて飛び込んできたパスタにすっかりやられてしまったのです。
たった5分外で待っていただけだったのですが、指先は氷のような冷たさです。今、身体に温かいものを取り込んだらどんなに幸せな心地になるでしょう。
私の口はすっかり、温かいパスタを迎える用意をしてしまいました。

私はボロネーゼを、学友も寒い中歩いてきたためかカルボナーラを注文しました。
お店で食事をする場合、待つ時間も楽しむというのが大人の心得です。

4年間共に学んできた学友との会話も美味しい気持ちでいたところ、たおやかな湯気をたたえて二人分のパスタが運ばれてきました。

ボロネーゼと言えば、麺の最頂点に挽き肉が盛られているものを想像いたしますが、このカフェのボロネーゼはまるでナポリタンのように全体が朱に染まったお料理でした。

少し大きく切られた具材たちが満遍なくなめらかなトマトベースのソースを身にまとい、麺の上で幸せそうに寝そべっておりました。
艷やかなナス、パリッとした皮を残したパプリカ、芳ばしい玉ねぎ、豊潤な香りで食欲をかりたてる挽き肉、そして妖艶とまで言えるモチモチのパスタ…
私の目の前の一皿にたくさんの奇跡が集まっておりました。本当に素晴らしい一皿でした。

この食材たちがこの後に向かう大学で、制作のエネルギーとなってくれる奇跡に感謝するばかりです。

学友と共に駅に向かいながら、ひたすらに幸せでした。

食べ物とのつながりは人とのつながり。
私の身体は今日も、愛すべき人たちの手で作られる、愛しい食べ物でできてゆくのです。

ごちそうさまでした。

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