病院がなくなる日㊻ 「介護施設」という新たな〝死亡場所〞 2024.3.8(99)

「介護施設」という新たな〝死亡場所〞
 減少傾向にあるとはいえ病院死の比率は高いのですが、近年、少し変化が生じています。それは病院、自宅に次ぐ3つ目の選択肢となる「介護施設での死」の急増です。
 
2005年に底を打った自宅死は、それ以降もほぼ横ばい状態が続いています。一方で、介護施設での死は、2005年に全体の3%だったのが、2021年に14%と16年間で11%増加しています。
 
介護施設とは、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、グループホーム、老人保健施設、サービス付き高齢者向け住宅等、介護保険を利用して入居する高齢者介護施設を指します。全ての施設で亡くなるまでケアしてくれる(看取る)わけではありませんが、高齢化が進むなか、看取りまでできる施設が徐々に増え、中には医療従事者である看護師が常駐している介護施設もあります。

 介護施設での死の増加を後押ししたのは、2000年に始まった介護保険制度でしょう。自己負担を抑えながら施設を利用できる、公的な施設だけでなく民間の施設でも介護保険サービスが受けられることから介護施設への入所者が増えたことが、施設での死亡増にも大きく影響していると考えられます。

 この制度の下で介護施設自体が激増しただけでなく、親の介護を他人に委ねることへの後ろめたさや罪悪感といった患者家族の心理的ハードルも大きく下がりました。また、施設運営サイドにとって大きかったのが、2006年介護報酬改定によって設けられた「看取り介護加算」です。これは、「老衰や疾病で回復の見込みがないと診断された患者を、医師や看護師と連携して介護施設で看取りをした場合に加算される介護報酬」のこと、施設がより充実した看取り介護を提供できるようにという目的で制定されました。

 それまでの介護施設では、「入所者の容態が悪化したら救急車で病院に搬送し、亡くなるのは病院」というケースも少なくありませんでした。それが「看取り介護加算」という報酬誘導のインセンティブによって、「最期までウチで看取る体制を整える」という施設が増え、結果として「介護施設での死」の増加を後押ししています。

 現状では、死亡場所としての比率はまだ高くはありませんが、看取りができる介護施設は、「最期の場」の選択肢の1つとして今後も増え続けると予想されます。

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