男性のヘルスマネジメント 性感染症編⑪ B型肝炎、HPVに予防ワクチンという手もある 2024.6.4(187)

コンドームの装着は性感染症の〝暴露前予防〟の一つですが、もう一つ有効な暴露前の予防法として、ワクチン接種が挙げられます。

 性感染症のうち、B型肝炎と、子宮頸がんや尖圭コンジローマ等を引き起こすHPV感染症に対しては、すでに有効なワクチンが開発されています。自身のセックスライフについて「感染リスクが高い」と自覚している場合は特に、あらかじめ接種を受けておく事が一つの賢明な予防法になります。

 このうちHPVワクチンは、特に女性にとって非常に重要な意味があります。

 180種類以上あるHPVは主に膣性交によって感染し、性行為経験がある人の全てが、一生のうちに一度は感染するとされています。

ローリスク型のウイルスの場合、感染は一時的で無症状のケースも多く、また自然に消失する事が多いものの、ハイリスク型ウイルスだと女性では子宮頸がん、咽頭がん、膣がん、肛門がん、外陰がんの発症につながる可能性があります。

 ハイリスク型HPVのうち、子宮頸がんの発症に関連するウイルスについては、ワクチン接種が有効です。ちなみにこのワクチンは、細胞内にあるウイルスを排除する事はできないので、完全な効果を期待するなら、初めて性行為を行う前に打つ必要があります。

日本では、子宮頸がんの罹患者数、死亡者数ともに増加傾向にある一方で、このワクチン接種を国のプログラムとして早期に取り入れたオーストラリア・イギリス・アメリカ・北欧等の国々は、感染および前がん病変の発生が有意に低下しています。特に、最も進んでいるオーストラリアでは、2028年に新規の子宮頸がん患者がほぼいなくなると予測されているのです。

子宮頸がんの95%以上がHPVによるものである事、そして日本ではワクチンの有効性が91%と確認されている事、信頼性の高いコクランレビューにおいて全身的、あるいは重篤な副反応のリスクが有意に認められない事等から、HPVワクチン接種は非常に有益だと考えられています。

HPVワクチンの接種は、男性にとっても大きなベネフィットがあります。具体的には、膀胱がん、咽頭がん、尖圭コンジローマの予防に効果があるとともに、ハイリスクHPVに感染して女性にうつす可能性を低減する事ができます。今のところ、男性で接種するのは、健康意識の高い人に限られていますが、広く接種が望まれるワクチンだといえるでしょう。

 なお、誤解が多いので一応記載しておくと、一部の女性が服用している低用量ピルは経口避妊薬で、妊娠を防ぐ効果しかありません。性感染症の予防には、全く効果がない事を理解しておきましょう。


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