医療維新㉑ 2024.4.7(129)

 ここまで、日本維新の会が発表した「医療維新」を取り上げながら、筆者の案も示してきました。

 社会保障給付費が膨れ上がり、特に現役世代の負担が増加する中で、持続可能な医療・介護業界を作っていくには、私はこれまでの連載で述べてきたように以下の4点が重要なポイントであると考えています。

〇 社会主義から市場原理へ
〇 公的給付の抑制、後期高齢者支援金の廃止
〇 規制緩和、統合再編、ICT活用等による経営の合理化
〇 保険外サービスの充実による産業としての成長

 ここまで読んでくださった方々の中には、現役世代が高齢者を支えるため、医療保険料収入の半分程度が使われているという事実に驚かれた方も多いことでしょう。現役世代が高齢者を支えるという制度の前提を疑うというのは、初めての経験だった方も多いのではないでしょうか。現在の制度改革が、公的保険制度の維持が目的化してしまっている事に気づかれた方は、今後は、より広い視野で議論する事ができるようになるでしょう。

 本連載でお示ししてきた施策を遂行していけば、後期高齢者支援金を廃止するレベルの、10兆円以上の公的給付の抑制も可能になります。提供者や保険者の経営合理化を進めていく事は、人員削減といった痛みを伴うものになるでしょう。業界団体や高齢者といった既得権者の反対が予想されますが、改革を先送りすれば、将来的に現役世代の負担は更に大きなものになるでしょう。

他方で、様々な規制緩和が、保険外サービスを含め、新しい市場を生み出すことが期待されます。このまま今のパッチワーク的な改革を進めていけば、公的給付の抑制に伴い、従事者の給与はジリ貧でしょう。経営の合理化や保険外サービスの充実は、産業としての競争力の確保、ひいては従事者の給与アップにもつながるでしょう。

 医療・介護に限りませんが、日本ではサービスの価格が安い傾向にあります。今後は、サービスに見合った負担をしていくという事が基本原則となっていきます。美容医療にはあれだけお金を払うのに、出産や子育てはなんでも無償化(=くれくれ)というのは通用しません。少子化対策という事であれば、可処分所得を増やすべく、減税や社会保険料の減免の方が効果がありますし、出産や子育てを希望していない人まで、少子化対策の費用負担をするのは不公平であるという意見もあるでしょう。

 最後に、そもそも、医療・介護はアウトカムである健康寿命の伸長に貢献しているのか、費用対効果はどうかという点について、指摘しておきます。

 上のグラフは、1人あたりの医療費や人口あたりの一般病床数の格差を示しています。医療費で1.6倍、病床数で2.2倍の格差があります。下のグラフは健康寿命を示したものです。

読者の方々は、医療費が高く、病床数が多い都道府県の方が、健康寿命は長いと考えるのではないでしょうか。しかしこのデータからは、健康寿命にほとんど差はなく、むしろ比較的医療費が安く病床数が少ない都道府県の健康寿命が長めになっています。

この事実を知ると、年間60兆円もの公費をかけて制度を維持する事がどれだけ国民の健康に寄与しているのか、疑問を持たれる方も出てくるでしょう。医療従事者は、医療の発展が長寿社会を作ってきたと主張したいでしょうが、実際には、食生活のような、生活水準の向上による部分が大きいと思われます。

本連載が、「医療維新」を再考し、財源の制約がある中で、これ以上、現役世代の負担増を強いずに、効率的で質の高いヘルスケアシステムを考える機会になれば、幸いです。

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