誤解される経済現象③ 円安と日本経済 2024.5.7(159)

3回目の今回は、円安と日本経済です。

 1ドル160円時代、34年ぶりの円安を更新するというニュースが報道されています。日本と米国との金利差が要因と報道されていますが、日本の国力が低下しているからだという指摘もあります。実際のところ、どうなのでしょうか。

 そもそも国力とは何かという疑問に答えられない人も多いのではないでしょうか。実際、2011年10月末に1ドル79.75円という最高値を記録していますが、2011年というと東日本大震災が起こった年ですが、日本は国力が強かったのでしょうか。

 円ドルレートを決定する要因として、①日米金利差、②日米予想インフレ率差、③地政学的リスク等、様々なリスクが挙げられます。為替レートは、国力ではなく、①~③の要因が急に変化すると、ごく短期間に急騰したり急落したりするのです。

 為替レートと同様、国際収支はわかりにくい分野であり、様々な誤解が生じています。

 経済収支が赤字になると外貨が稼げないから輸入できなくなるのでしょうか。

 これについて、経常収支が赤字でも、輸入企業は米国の金融機関からドル融資を受けるか、あるいは、日本の金融機関から借り入れるなり、日本の証券市場で証券を発行するなりして、円資金を調達し、その円資金を外国為替市場でドルと交換して、そのドルで輸入できます。

 経済収支が赤字になると、円安が止まらず、物価高騰も止められなくなるのでしょうか。

 これを主張している学者は意味不明です。為替レートは経常収支によって決まるという、古い理論を採用して議論しているため、議論に値しません。

 利上げしないと、円安スパイラルが起きて、円安が止まらないという主張もありますが、どうなのでしょうか。

 米国の中央銀行は、インフレを抑え込もうと、政策金利を引き上げました。それに伴い、日米の金利格差が拡大し、円安ドル高が進みましたが、150.38円をピークに、1ドル133円程度で安定し、円安スパイラルは起こっていません。この安定化の原因は、確かに、日米の金利差は拡大しましたが、米国の急速かつ大幅な金利の引き上げにより、米国の景気悪化リスクが懸念されて、米国の国債金利が低下したため、円安が止まらないという事象は起こりませんでした。

 加えて、日本経済は信用されないから経常赤字を続けられない、貿易赤字が続くのは日本企業の国際競争力が落ちているからだという指摘があります。

 これについては、日本の対外純債務残高は巨額ですし、日本の貿易赤字の主要因は鉱物性燃料価格が大きく上昇する時です。特に、天然ガスの価格が高騰すると、貿易赤字が大きくなる傾向が観察されます。つまり、日本の貿易赤字の原因は、日本企業の競争力の低下ではなく、鉱物性燃料価格の高騰なのです。


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