潮風よ、背中を押して
百日紅の名前も知らずに頬を寄せていた夏もあったな。
風に揺れる赤い群れに埋もれて、あの時本当はすでに1ミリだけ感づいていたのかもしれない。
もらった本を燃やしてしまってもよかったし、ずっと飾っていることもできた。
だけど終わり方にこだわるのは、それこそ執着がましくて馬鹿らしくなるから、どうもせずに本棚の取りにくいところに置いておく。
愛する人が恐れる人になっていく過程を何度か経験していくことで、私はゆっくり歩くようになった。それによって避けられたこともたくさんあって、だから信じきれない言葉もたくさんできた。
線路が溶けて電車が動かないんだって、よくそんな暑い中で生きているよね人間は。
そう言いながらようやく笑ってくれた君の、その憎しみの範疇に入らないように、視界の端っこを永遠に歩いていたかった。
最近また背中を刺される夢をよく見る。
間違えて早くたどり着いた朝を眠らずにたゆたいながら、好きだった匂いを思い出す。
誰といかなる時を過ごしていても、いつだって人はどこかしら孤独なままで、私は1人で海を見ることになる。
もう、前を向くことしか頭にちらつかせてはいけない。
追い風が吹いて、髪が顔を覆う。
夏は意外と晴れない。けど私は季節で一番夏が好き。
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