君にとって物分かりのいい女であり続けたい

生きているか死んでいるかいつも分からない男友達がいる。

高校の時の同級生だが、クラスも文理選択も違う。
もともと彼自身、友人が多い方ではなく、そもそも一人でいることが多かった。高校卒業と同時にほぼ全員との繋がりを絶ったらしい。しかし、選ばれし者のみが彼のラインを知っているらしく、その一人が私である。

彼はおそらく私をひときわ信頼してくれている。それは嬉しいことではある。
けれど、私は正直彼が思うほど彼と仲がいいとは思っていないのだ。彼には悪いけれど。だから彼がそこまで私を慕ってくれていることがただ不思議なのだ。

彼は私に、5ヶ月に1回くらいの頻度で生存報告をするように、意図の無い気まぐれなラインを送ってくる。何を質問しても彼の実態はいつまでもわからないが、例えばある日は、北海道にいることだけがわかる。ずるずると3日ほど会話を続ける。社会問題や常識についてひとつひとつ突っ込んでいく。会話がぷつりと切れる。忘れた頃にまたラインが来る。次は岐阜にいることだけがわかる。男女関係の不思議について語り合う。2日続いてまた会話の途中でサヨナラを告げられる。
気ままにも程がある。

彼は、彼のその天才さによって生きづらくなっているのかもしれない。
彼は誰と話しても自分と対等になれないことを知っていて、だから一人を選び続ける。けれど、たまにそれが耐えられなくなる。仕方なしに、辛うじて会話がわかる(と自分が認めている)私にラインを送る。のかもしれない。

私は彼をとても尊敬しているし、だからその彼に「わかるやつ」と思われるのは名誉なことだとも思う。
ただ、それ以上に、彼が安らげるために、彼の会話をさらりと流しつつ、わかってあげているふりをし続けたいのだ。彼が誰にも1mmとて理解されないんだと感じてしまえば、彼のかすかな希望が絶えてしまう気がするのだ。
そんな彼をがっかりさせないために、思い立った時にこまめにニュースをチェックする。色んな本も読んでみる。物思いにふける。
少しでもわかり合うために。適当にかわすのでなく、本当に対等に言い合うために。
でもでも、彼のことを私以上にわかり合える人が現れたらいいのにな、とも思う。

彼はいまどこでどんな夢を見ているのだろう。どうやってお金と時間を使っているのだろう。
文通相手からの便りを待つように、彼からラインが来るのをのんびりと待っている。

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