詩をいくつか

〘靴紐ブルース〙

きみを、いつか不幸にすると
誓って、雨上がりの晴れた空の下
水たまりを避けて結んだ靴紐
指を不愉快にする茶色く濡れた靴紐は
きみの切れた目だ。
触れるまでなんの気にもならないのに
触れた途端しばらく気を悪くして
しかも普通にできていたことが出来なくなる。

〘ペンギン〙

東京メトロ銀座線
日本橋駅
朝のラッシュ
黒々とした集団が
うつむき加減に
のろのろと、体を左右に揺らし歩く
別に決まった訳でもないのに
はみ出さず、駆け出さず、騒ぎもせず
だのになぜかザワザワとうるさく
ペンギンのようだと、ぼんやり思う
誰も心を通わせていないのに
不思議で、滑稽で、
朝の8:30、私は気が遠くなる。

〘クロダの葬式〙

死んでったクロダ
火葬場で焼かれて
死んでったクロダ
立派な骨が残っていますなんて慰められて
死んでったクロダ
じゃあなんでお前の息は止まったんだよ
死んでったクロダ
俺の骨密度78歳なのに
死んでったクロダ
なんで俺は生きてるんだよ
死んでったクロダ
お前、もうどこにも行けないんだよな
死んでったクロダ
火葬場の嘘みたいに高い煙突から出る煙にお前がいる訳でもないし
冷たい雨にお前の魂が混じって大地にしみわたる訳でもない
死んでったクロダ
お前の骨は、冷たい石で囲まれた墓の中
死んでったクロダ
インドに行って腹壊したい
ベガスでカジノしたい
ドイツでソーセージ食べたい
逆に香川でうどん食べたい
死んでったクロダ
お前もうどこにも行けねえんだな
死んでったクロダ
雨は上がって、晴れて、また雨降ったりやんだり、台風が来たり、雪が降ったり、背景で桜が咲いたり枯れたりコンビニで来たり潰れたり、老朽化したり移転したり、そこに住む人はなんにも変わらない感じ仕事したり学校行ったり飯食ったり笑って彼女作って引っ越したり就活したり階段登ったり電車の中で飯食ったり
死んでったクロダ
お前、何してんだよ
天国にも行けないし、地獄なんてない
死んでったクロダ
上にも下にも行けないで、なあ、お前どこに行くんだよ

〘地獄にて〙

花が咲いておりました。
可憐と言うには目に余る色彩で、
綺麗と言うには行き過ぎた大きさで、
何とも群れず、蔦にも巻かれず、
花が咲いておりました。
わたくしはたおってみたいと思いました。
征服や、優位や、嫌悪や、独占や、残虐や
そのような感情のゆらぎはございませんでした。
ただ、ただ、初めて出会う鮮烈に対し
純朴に惹かれたのです。
そうしてその純朴のまま、手を伸ばしたくなったのです。
幼児が、ひらひらと踊る蝶を追いかけ加減なく握りつぶしてしまうような
本能に基づいたものでした。
私のくすんだ指先が花びらに触れると、
まるでわたくしに本来あるはずだった血色かのように、
なんの違和感なくより一層鮮やかに見えました。

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