ノーリターンノータリン
すかすかの墓標 すかすかの墓標
「まひるちゃん」
私を呼ぶ甘ったるい声、
「まひると、まちこ、似てるね」
わざわざ互いを指でさしながら、ニヤッと笑う前歯に矯正器具、
「まひるちゃん、だいすき」
大きめの白いTシャツから、細いを通り越した日に焼けた枝みたいな腕が生えて、それが私の体に巻き付く。
(こんなに、力なしで、細いのに)
黄色に近い茶髪のショートカットはさらさらとして、動く度立ち上る汗と香水の香りが鼻と後頭部に沁みた。
旭まちこの痩せギスの腕は、私の弛んだ体を通り越して魂まで締め付ける。
それはまるで、
「呪いだね」
「何か言った?」
「何にも、」
ねぇまちこ、知らないでしょ。
あなたがくれたルーズリーフのラブレターも、変な青色のサングラスも、サイズが合わないヒールも、あなたにしか似合わないワンピースも、お揃いの蛇の指輪も、キスして移した口紅も、タイスケも、すべて私は捨てられなくて、そばに置いてることを。
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