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稽留流産⑧


「〇〇さん!〇〇さん!」

肩を叩きながら
誰かが私を呼んでいます。

また誰かが肩を叩きながら私を呼んでいます。

「私の名前…呼ばれる…」

なんとなく記憶があります。

頭は覚めているような
でも実際起こっている出来事を
認識できるほど覚めていなくて
身体も動かない
声もだせない…
不思議な感覚でした。

でも耳だけはハッキリ聞こえて
「麻酔の量は通常だったけどね…」
と不思議そうに先生が言っている
のが聞こえてきました。

どうやら私は麻酔が効きやすい
体質のようでした。

「〇〇さん!わかります?」
「〇〇さん!〇〇さん!」

また肩を叩きながら
何度も名前を呼ばれました。

「わかってます…でも反応できません…」

頭の中でそう思っていました。

なんとなく目が開いていき
焦点が合いはじめ
看護師の呼びかけにも
反応できるようになったとき

「手術終わりましたからね!」

終わった?
全然記憶にありませんでした。
痛みもなし。
ただ身体のダルさだけでした。
時計の針は、12時10分。

赤ちゃん、無事にお空にわたったんだ…
私、もう妊婦じゃないんだ…
自分一人の身体に戻ったんだ…

いろいろ頭に浮かびました。
でも涙はでませんでした。

覚悟していたこと。
強くなると決めたこと。
泣かないと決めたこと。

私は最後の最後まで
エコーで赤ちゃんの姿を
見ることができなかったため

少しでも見てみたかったな…
でも見ていたら手術を乗り越えられたかな…

そんなことも考えました。

手術後は病院で2時間ほど休みました。
病院側も経過観察をする必要があるためです。

休養時間も痛みは感じませんでした。
ただ出血だけはありました。
生理初日くらいの量です。
痛みがなかっただけ安心しました。

2時間経ち、最終のバイタルチェックを受け
術後の注意事項
術後の検査の日程
処方薬の説明
を看護師さんがしてくれました。

説明の途中途中で
身体を気遣ってくれる看護師さん。
きっと今までたくさんの手術に立ち会い
たくさんの涙を見てきたんだと思います。

私はそれが一番嬉しかったです。
そして先生を始め、
手術に立ち会ってくださった
全ての病院スタッフの皆様に感謝しています。

お会計のとき、
手術代とは別に
赤ちゃんの供養代と火葬代も支払いました。
病院側で手配してくださいました。

仕事を休んでくれていた主人に
無事に終わったことを伝え
迎えにきてもらいました。
(新型コロナの影響で主人は院内に入れません)

主人の前でも泣きませんでした。
手術前に私のお腹に向かって
「またね!」
と2人で言ったからです。

私の初めての妊婦生活に
幕を閉じました。