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文体の舵を取れ|練習問題①〈文はうきうきと〉問2

練習問題①の内容をひきずって、②に挑戦です。喜怒哀楽、の文字を直接つかわぬようにして、うきうきした気持ちを書いてみました。うきうき? ええ、うきうきです。

練習問題① 文はうきうきと
問2:一段落くらいで、動きのある出来事をひとつ、もしくは強烈な感情(喜び・恐れ・悲しみなど)を抱いている人物をひとり描写してみよう。文章のリズムや流れで、自分が書いているもののリアリティを演出して体現させてみること。

<練習>

いただきます、と手を合わせてからのみくだすまでの間には、ためらいのひとつもなかった。丸のみにすればいいなどとけしかけられて、しかし、一〇〇年近く使い倒したこの嘴を全開できる力は持ち合わせていない。それでも、歓喜の涙、なるものがあるのだとしたら、まさにこの雫。両目からしとどにあふれ、琥珀の輝きを以て、ぼた、ばらりと落ち、爆ぜる。待ち続けること八十と、余年、ここにきてようやく回ってきたこの順番を、誰にもゆずるわけにはいかなかった。ふじむらさき子に捨てられ、やまぶき子に逃げられ、みるちゃ子には死なれ、つるばみ子のゆくえは、わからない。永遠に生きられることよりも、わかく、うつくしく散ることを望んだ女たちには、老いさらばえてなお生の淵にしがみつく、しわがれのきもちなど決してわからんだろうと、おもい、のろい、過ぎゆきし者たちをあわれみながら、只一人のこり、邪魔だてされることのなくなった自由の時を謳歌する。鳥のようだと嗤われてきたこの唇を、端までこじあけ、男の掲げた、たまごをえいやでねじいれる。粘液に包まれた、特大のひとつを。涙と共に満面の笑みで、ずるり吸い込み、莞爾。待っているあいだに他の誰かを蹴落としても、必ず取りにいきたかった、幻のたまごを、ようやくに、ようやくにと、けたたましく、高笑いしながら吸い込む殻の、いきおい喉奥に貼りついて、前にもうしろにも進まぬまま、やせ細った通り道を完全にふさぐ。届くはずの空気が絶え、うず高く積まれた札束に絡む、からからの声が、救いなく、ひいひゅうの断末魔にかわり、ほとんど死んでいたはずの細胞が完全に死に、死んだ端からくさりはじめる。はじめるが、その真ん中には、永遠の魂。我がいのちは永遠なりと、とてつもない幸福を、亀に感謝して。と、見開かれた眼には、またしても、なみだ。

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