『ある女』を読む

※ネタバレ含みます


4月8日、『ある女』を友人から手渡された。岸田戯曲賞を受賞しているらしい。戯曲というとシェイクスピアくらいしか思い浮かばないし、現代でも戯曲という枠が存在してることに「へぇ~」ってなった。その中で岸田戯曲賞というのは、友人曰く、戯曲界の芥川賞なのだそうだ。へぇ~。
「不倫してる女の人の話だから、たぶん気に入ると思うよ。」思わず、うるさいよ、とわかってんじゃん、の入り混じった笑いが出た。1ページ目を開くと台詞と状況説明がわかれていて台本のようだった。見慣れない文体に読めるか少し不安になったが、友人の言葉を信じてとりあえず借りてみることにした。

借りてから3週間ほど経ったGW初日、単発バイトをキャンセルされ、予定していた予定がなくなったから、なんだか無気力になってしまった。今日はもう出かけたくない。そしたら、机の上に出しっぱなしだった本の山が見えた。そういえば近くその友人と会うし、そのときに返せるよう読んでおこう。貸し出し期限があると思うと唐突に読む気が湧いてくる。人間はちょろい。冷蔵庫にあったカフェオレとYoutubeで邪魔しない程度にPOPな曲をかけて座椅子に座る。完璧だ。本を開いた。

<主人公のタカコは、彼氏に唐突に振られた直後、会社の上司である森に優しくされて何度か行為に及ぶが、森が結婚していることがわかる。森は離婚してくれそうもない、でも関係を断てるわけでもない、沼ってる状態だった。>
確かにこういう話は好きだ。あいつにしてやられた感じがする。妙に腹が立ったので、そいつのしたり顔が浮かべて嫌な奴に仕立てておいた。

<そんな中、タカコは森が自分との行為に満足してなさそうなことを思い出し、偶然出会ったセックス教室の小林に師事する。経験を積み、メキメキ技術を向上させるタカコ。森は、これまた偶然教室に通うタカコのことを知り、タカコと真面目に向き合おうとし、妻と別れる。>
こういう時、相手の気を引こうとしてこういう所を頑張っちゃうの、沼ってる女性あるあるなのかな。けっこう現実味あるなぁ。森の方も、相手に感情移入しちゃって本気になるあたり、人はいいんだろうなと思えてしまう。

<タカコは、森の真面目なに向き合おうとする姿勢に気づき、セックス教室をやめようとする。小林はタカコを引き留めようとして強硬手段に出るが、タカコに反撃される。その後、タカコは森とやり直そうと考えるも、実際森は離婚しておらず、妻と仲良く歩くところを発見する。怒った小林はタカコを拉致するが、なんとか建物から逃げ出す。>
ここで話が終わった。悲喜交々。タカコのその後も悲劇と喜劇を繰り返していくだろう、という意図だろうか。

意外にもすんなり読み終えた。本になって売られてはいるが、役者にとっては台本だ。読みやすく感じる方が自然かもしれない。てきとうなページを開いて声に出して読んでみる。難しい。これを覚えて、舞台で演じた人間はすごいな。
ここ数年愛憎的な話が好きになった。昔は反吐が出るとか思ってたのに。ゴシップ好きなのは叩きたいからというより人間味を感じてるからかもしれない。みんな社会的動物って顔しながら生きてるくせに、一皮剥けばただの動物だ。そんな俗物感がたまらない。改めて表紙を見ると、そこには雌の人間が描かれていた。


GW三日目、友人と会うことになった。会っていきなり友人から、「彼女ができました」とニヤニヤした顔で報告を受けた。今日この本は返してやらないことにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?