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エッセー【沼】熱

「誰かの一番」になるのは、私が想像していた物よりもずっと重たかった。それは、私を一番にした人たちがどんどん狂って行く様を、責任を持って見届けなければならないという責務のようなものが発生するからだ。私が先に狂うか、相手が先に狂うか、二つに一つだ。そういう身を焦がすような恋やら肉欲やらにまみれ続けていると、もう何が正しくて何が間違っていてどっちが上でどっちが下なのか分からなくなる。

そんな灼熱の無重力みたいな状態が延々と続くわけじゃないし、そんなのが永遠に続いたらそれこそ気が触れるけど、私にはそれ以外を選ぶ権利がない。熱が私を選択する。気付けば沼のようなものにはまっていて、もがけばもがくほどにずぶずぶと飲み込まれていく。沼には蓮がたくさん咲いていて視界は薄紅色だ。

白いシーツがどんどん透き通っていって、私たちは二人、透明で湿った何かの上で玩具のように踊る。

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