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タズ・スカイラーへの興味が尽きない件


追記:この記事は2021-22年時点の情報を元に書かれたものです。その後判明した追加情報を含め、別記事にまとめる予定です。(2023年7月)



Netflix史上最大といわれる予算を投じ、大規模ロケが進行中の実写版"ONE PIECE"。昨年発表されたメインキャストも、おおむね好意的に受け入れられた印象です。
雰囲気や外見だけを見ても、確かに絶妙な顔ぶれです。
しかし彼らが選ばれた理由は、それだけではないかもしれない。それぞれの生育環境や価値観を含めた内面についても、キャラクターとの共通点も求められたのでは。
少なくとも、サンジ役を演じるタズ・スカイラー氏の経歴を見る限りは、そう疑わざるを得ないのです。



彼に興味を持ったきっかけは、オンラインマガジン「LA NUIT」に掲載されたインタビュー記事でした。

要約すると、タズ氏は
・数年来摂食障害を患っていること。
・これまで自作品の中で繰り返し"トラウマ"をテーマにしてきたこと。
・自身のトラウマをプラスの力へ変えるべく努めていること。
・上記を含め自身の経歴にサンジとの共通点が多いこと。

などを語っています。

じつは俳優業に先んじ、脚本家・プロデューサーとしてデビューしている彼。過去の出演作やインタビュー関連の記事からも多才ぶりが伺えます。

そして過去の情報を集めるほどに、
言外の事情を窺わせる人物でもあります。

例えば、彼の出世作と言える「Warheads」(2019年)。
戦場帰還兵のPTSD問題を描く舞台作品。タズ自身が原案と脚本・主演をこなし、翌年いきなりオリバー賞にノミネートされました。鮮烈デビューか。
(※ちなみに実写版でゼフを演じるCraig Fairbrass氏も、同舞台に父親役として出演しています!親子!)

以下はレビュー記事の抜粋になります。
ちょっと読んでみてください↓

「はっきり言えるのは、このテーマ(PTSD)がタズにとってあまりに身近であること。
脚本・演技ともども、彼自身の苦い実体験に深く基づいているということだ。
実際、終幕時の彼は、拍手喝采さえほとんど受け止めることができない様子。
彼はこの作品を演じるたびに、存在ごと打ちのめされ、傷ついているに違いない。」

出典:https://www.thereviewshub.com/warheads-park-theatre-london/


いやいや、何があった。

サンジ役に出会う以前、
この人はいったいどんな人生を歩んできたのか。

ネットから拾える限りの情報を紹介しつつ、
みなさまにもぜひ 一緒に沼に落ちてほしい
いえ、興味を持って欲しいと思った次第です。



1.出自の多様性とノマド性

プロフィール
タズ・スカイラー
脚本家・俳優・プロデューサー
1995年12月5日生まれ /183cm/75kg
"Taz" は通称で、
本名タレク・ヤシン・スカイラー/Tarek Yassin Skylar

※Tarekはアラビア語で"明けの明星"、"扉を叩く者"などの意味を持つらしい

父親はシエラレオネ国籍のレバノン人。母親はヨークシャー出身のイギリス人。

それぞれの事情で故郷を離れた2人はスペイン領カナリア諸島で出会い、そのまま現地で結婚。
アラブ・アフリカ・ヨーロッパ。民族・文化的に多様なバックグラウンドを背負い、なおかつ両親共に縁のない国の離島で誕生したのがタズ・スカイラー。
はじめから異端として生きる宿命にあったとも言えます。

ちなみにルフィ役のイニャキ・ゴドイはメキシコシティー出身。
ナミ役はミネソタのセントポール、ウソップ役はデンバー出身。
真剣佑はワ国産のロサンゼルス育ち。
出身地の散り方にさえ、イースト組らしいバランス感があるような。

カナリア諸島で子供時代を過ごしたタズ・スカイラー。
なんと中学卒業を待たずして、早くも自立の道に入ります。
彼は過去のプロフィール動画でディスレクシアを告白しており、決断に至るまでの苦労が偲ばれます。
しかしながら単身海外へ渡り、自力で職を探し歩き、サーフボードの制作を学びながら自身のブランドも立ち上げる15歳って。度量が半端ない。

ちなみにサーフボード制作時代、15歳の中ナス・スカイラーによる動画作品がyoutube上に残っております。
動画制作を試行錯誤するうちに、映像やストーリーへの興味が芽生えたらしい。





2.何やら戦場の影


冒頭に書いた通り、タズの代表作は「Warheads」という舞台作品です。アフガニスタンから帰還した若い兵士の苦悩をタズ自身が書き起こし、主演の兵士役も自らが演じました。

※役者を兼業するようになった理由は経費節約だそうです。自分自身で演じればギャラが発生しないので。

いくつかの記事によれば、Warheadsのストーリーは実話がベースになっており、主役のモデルもタズの親友らしい。

戦場で心を壊し、様変わりした友人の様子を間近で見てきたことに加え、
ちょっと気になる一文を発見しました↓

Coming from a military family, Skylar has directly seen the effect war has had on his similar-aged friends.
軍人の家庭に生まれたスカイラーは、戦争が同年代の友人たちに与える影響を目の当たりにしてきた。

出典:https://www.broadwayworld.com/uk-regional/article/Spoken-Word-Poet-Suli-Breaks-In-Theatrical-Debut-About-PTSD-In-Young-Soldiers-In-October-2018-20180904

実家が軍の関係者ってことだろうか。
両親のどちらかが、軍で働いていた?
ここは裏付け情報が他に見当たらず、詳細を待つ必要があります。

ただし、アフリカに近いカナリア諸島がスペインの軍事的要衝であることは確かなようです。タズのいたテネリフェを始め、近くの島にも陸海空軍の基地が揃っている模様です。軍に近い環境で育った可能性も、なくはない。

ともあれ彼は、風光明媚な大西洋の島で同世代よりも早い自立を果たし、間接的な戦争の影を見つめ、工房時代のサーフィン動画をきっかけにして映像制作を志すことになります。新たな夢を抱き、ロンドンへ渡るのが19歳の時。
故郷への別れの挨拶が、彼の最初のインスタ投稿になっております。

バイバイ、カナリア。きっと恋しくなると思う。でも新しい年(2015年)のために、今はやりとげる時。



3.渡英後の壮絶な何か


そしてイギリスに渡るや否や、いきなりショートフィルム制作や、若手ライターを育成するコミュニティに関わりはじめる。カナリア時代から人脈と繋がっていたのかもしれませんが、他方で明確に進路を決めていなかったフシも。

というかですよ。
こちらのプロフィールが事実であるなら↓
彼は渡英翌年、なんと軍隊に入ろうとしております

Tarek attempted to join the TA in 2016, failing his medical test after a car accident, which left him with a savage concussion. Having to wait a whole year before he could re-apply for the military, Tarek threw himself into writing and performing. Warheads is his first writing credit.
Having to wait a whole year before he could re-apply for the military, Tarek threw himself into writing and performing.
タレクは2016年、TA(Territorial Army:イギリス国防義勇軍)への入隊を志願するが、交通事故により(脳震盪)メディカルテストを通過できなかった。
再挑戦まで丸1年待たざるを得ず、この間執筆活動とパフォーマンスに打ち込むこととなる。

出典:https://www.concordtheatricals.co.uk/a/120114/tarek-skylar


待って。

いやいやいや、地元でさ、
彼は帰還兵の痛ましい状況を目にしたわけです。
接する彼の側だって相当傷ついたはずです。
そこをあえて、リスクを承知で、同じ環境に身を投じようとします?

友人の物語を書くにあたり、同じ体験を必要とした。
それとも自身の苦しみの元凶に対峙したかった。

いずれにせよ、動機にただならぬものを感じさせます。

同時にこの頃・・20代前半は彼が摂食障害と戦った時期にも相当するはず。

一方で創作活動も本格化していきます。
翌2017年には主演・プロデュース兼任のショートムービー「Multifacial」がLA映画祭インデペンデンス部門などなどを受賞。

これ以降は役者としての活躍も本格化。「Warheads」の執筆を進める傍ら、スカイダイビングにサーフィン・クライミングに打ち込む。インスタに並ぶ写真はひたすらアクティブで笑顔。背景にいつも海か空。基本的に上半身裸。もう1枚着てほしい。

陽キャにしか見えない過剰なまでの活動量と、内に秘めたメンタルの葛藤。コントラストが凄まじいことになっています。

同じインタビューからは、彼がスポーツや執筆活動よりも(いやスポーツも創作も好きなのでしょうけど)、
その先に付随する「没入状態」を欲している様子が窺えます。何かに無心に打ち込む。その状態こそが心を落ち着かせる。ひいては心を守ってくれる。
このあたりの語りに「フロー状態」「ゾーン」など心理学系の言葉を混ぜているのは印象的です。カウンセリングを受けてたのかな。

とにかく彼はトラウマ克服のために死に物狂いで活動に打ち込み、結果的にキャリアを積み上げていった。軍への入隊が叶っていれば、今はどうなっていたんだろうなあ。

そういうわけでタズ氏の経歴を振り返りますと

・文化的に複雑なアイデンティティ。
・何かあった生育環境。
・15歳から1人で生き抜き、19歳で作劇を志す。
・きっとそのへんの何かに由来するトラウマ。
・同じくそのへんに由来する、「食」とのデリケートでストイックな関係。
・それら全部を飛躍のバネにしてしまう精神力。

そういう人がサンジ役を引き受け、映画Boilling Pointでカクテルを極めたプロ根性を持って、今は足技の取得に心血を注いでいる(ガチでキツかったそうです)。

他のキャストの経歴をざっくり調べてみると、やはりそれぞれにキャラクターとの共通性を感じるんですよね

役柄の要素を宿す人々が巡り合い、チームとなって作品を仕上げていく。その過程でどんな相乗効果が芽生えるか、興味があります。

いずれにしても、
タズ・スカイラー氏の人生に「ワンピース」との出会いが
より良い実りをもたらすよう、願ってやみません。

あっ、もうひとつの共通項を忘れていました。
家族への言及が少ないタズ氏ですが、ジジコンだけは確定済。↓

常々疑問だった。どうして俺はこんなひねくれたクソガキに育ったんだろうって。昨日祖父とお茶を飲んで、誰譲りかわかった。この人核戦争が起こっても生き延びるよ。最近膝の手術を2回受けたけど、目の中にはふてぶてしい輝きが見える。愛してるよジジイ。


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