見出し画像

「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第35回 これからベトナムはどこへ向かうのか?

 2022年7月29日、古川法務大臣は会見の中で外国人の技能実習生制度の見直しについて言及しました。技能実習生制度は途上国の人材育成を目的としてスタートしましたが、現在では安い労働力を囲い込む目的で使用されている側面もあり、実態が目的と乖離しています。この点で政府は年内にも有識者会議を設け、制度の見直しに向けた具体的な議論を始める方針です。
 
 この実習生制度を支える上で、最も大きな役割を果たしてきた国がベトナムです。VIETJOベトナムニュースによれば、2021年6月時点において日本で働いているベトナム人技能実習生の人数は約20万2000人おり、これは全体の57.1%を占めているとの事です。正にベトナム無くして実習生制度は維持出来ないと言っても過言ではないでしょう。
 
 しかしながら近年は、技能実習生を過酷に扱う事業所が顕在化しています。確かにこれまで日本とベトナムは長年にわたり友好関係を築いてきましたが、一方でこの実習生制度の問題は両国の信頼関係も毀損しかねない事態に進展しています。もしこの問題が更に深刻化すれば、それは人材面のみならず、貿易面にも影響を及ぼすようになるかもしれません。
 
 それで今、日本はベトナムとの関係を見直す時期に入っています。その為には、両国のこれまでの関係について正確な理解を得る事が必要です。ではどうすればそれを知る事ができますか?この点で統計は重要です。統計を調べれば、両国の関係がどのように深まってきたのかについて正しい知識を得る事ができます。それは過去の両国の歩みと共に、今の両国が抱える課題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
 
 しかし日本の統計だけを見ても余り意味がありません。世界の統計にも注目する必要があります。特に近年のベトナムは異次元の経済成長を続けており、世界中から投資が集まっています。仮に日本がベトナムとの良好な関係を維持しようと思っても、それ以上に諸外国からの投資が集まれば、ベトナムはそれらの国との関係を優先するでしょう。ですから海外の統計にも焦点を合わせる必要があるのです。
 
 しかし統計だけでは明らかにならない分野があります。それは生活している人たちの「生の声」です。特にベトナムはASEAN諸国の中でも貧富の差が非常に激しい国として知られており、都市部と地方ではかなり大きな経済格差があります。更に賃金上昇率に比例してインフレ率も相当高く、必ずしも賃金の上昇が生活の豊かさに直結しているとは言えない状況です。当然ながらこういったローカルの人々の生活というものは、統計にはなかなか現れないものです。ですから生の声に耳を傾ける事は重要なのです。
 
 この点で私は東南アジアの港湾で会社を経営していますが、ベトナムの企業とも定常的な取引があります。ベトナムにはハイフォン港やダナン港、またブンタウ港などの主要港湾がありますが、それぞれの港湾にクライアントがいるため、貿易の現場の最前線を見る事ができています。更に港湾で働く人々の多くは地方からの出稼ぎ労働者であり、彼らの賃金は相当低く、生活にゆとりもありません。私はこういった労働者の実態も垣間見る事ができているという点で、ベトナムを語る上で有利な立場にいます。
 
 それで今日は「これからベトナムはどこへ向かうのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本とベトナムの関係がこれまでどのように深まってきたのかを振り返ります。次に世界の統計を通して、ベトナムが世界経済の中でどのように成長を遂げてきたのかを考えます。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、今後日本はどのようにベトナムとの関係を深めていくべきかについて、考察を述べたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

ここから先は

5,542字 / 7画像
マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?