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Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第77話 Huaweiの世界戦略が目指すもの

前回の話はこちらから。
 
https://note.com/malaysiachansan/n/n6ca5242a3061
 
 この話は2024年2月に遡る。マレーシアの港湾でコンテナリース会社を経営する氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、この日、クアラルンプール市内のとあるバーにいた。氷堂の自宅はここから1時間以上かかる片田舎にあるのだが、ちょうど金曜日の夕方に打ち合わせが都心で入っていたこともあり、このバーに足を運ぶことにした。隣にいるのは、古くからの友人の孝雄だ。
 
 孝雄は日本の大学を卒業した後、香港の大学に編入し、そこでITについての知見を深めた。氷堂も香港で働いていた時期があり、孝雄と出会ったのはその頃のことだ。ただ孝雄は国安法が施行されて以降、変わりゆく香港の様子に嫌気が差し、日本へ帰国することにした。その後、孝雄は日本の大手通信インフラ会社に就職し、現在はマレーシアの子会社に駐在員として出向している。年齢は氷堂より一回りも年下だが、腹を割って話ができる数少ない友人の一人だ。
 
 さてこれより1週間前、氷堂は新しいスマホを購入したのだが、孝雄と話していると、そのスマホから通知音がした。画面を見てみると、誰かからメッセージングアプリのWhatsAppにビデオが送られてきたようだった。それでスマホを手に取ってダウンロードを試みたところ、1分近い動画だったにもかかわらず、10秒もかからずに完了した。氷堂は言った。
 
「ねぇ孝雄、最近のスマホって凄い速いよね。買ってよかったと思うよ」。
 
 それに対して孝雄も答える。
 
「そうですね、特にリツさんのスマホは5G対応になっていますから、これまでとは比べ物にならないほど速くなっていると思いますよ。リツさんはどの通信会社のSIMを使っていますか?」
 
 孝雄は自身も通信インフラ会社に勤めているだけあって、こういった事情には精通している。それで氷堂も答えた。
 
「僕はMaxisを使っているよ。マレーシアで最大手の通信会社だよね」。
 
 すると孝雄は言った。
 
「Maxisは良いですね。特に5Gに関しては、2019年にMaxisとHuaweiとの間で包括的技術協力契約が結ばれています。Huawei社の通信インフラは技術力が非常に高いですし、とても安定しています。今後はもっと速くなるでしょうね」。
 

 
 氷堂は初めて知った。マレーシアの通信インフラにおいて、Huaweiが重要な役割を果たしているという事を。ただ一点疑問があったので、氷堂はそれを尋ねてみた。
 
「それは楽しみだね。でもさ、米国のトランプ前大統領が中国系企業に対する制裁を強めた結果、その煽りを一番受けたのはHuaweiだったよね。その辺りの影響はないのかな?」
 
 氷堂の質問に、孝雄は肩をすくめた。そして答える。
 
「そうですね。米国が制裁を強めた結果、西側諸国は米国の意向を重んじ、自国の通信インフラからHuaweiを排除しました。でもここはマレーシアです。別に米国の属国ではないですし、中国との関係も良好です。ですからHuaweiを使うことには何ら問題ないですよ。それにこれはマレーシアだけに限らず、世界中のほとんどの国がそうです」。
 
 そう言うと孝雄はニコッと笑った。それにしても孝雄は色男だ。身長が180cm以上あり、昔から非常にモテたのだが、一方で身を固められず、30歳を過ぎた今も独身を貫いている。彼の立ち振る舞いと笑顔からは、その余裕を感じ取ることができた。氷堂はさらに尋ねてみた。
 
「なるほどね、確かにそうだね。でもさ、日本ではどうなの?やっぱり米国の意向もあるし、Huaweiは厳しいんじゃないかな?」
 
 氷堂の質問に対して、孝雄は深く頷いた。すると急に声を潜めてこう言った。
 
「リツさん、確かに2019年以降、携帯電話各社はインフラ通信機器にHuawei社の設備を用いるのを控えました。ただですね…実はいっぱいあるんです。Huawei製の機器って。それこそ日本だって、Huaweiの技術なしに通信インフラは成り立たないんですよ」。
 
 そう言うと孝雄は再び微笑んだ。その話を聞いて、氷堂はさらに興味が湧いてきた。米国の制裁を経て、Huaweiの経営にはどんな影響が及んだのだろうか?今後はどんな世界戦略を立てているのだろうか?さらに日本はHuaweiを排除したはずなのに、どうやって彼らは通信インフラに割り込んでいるというのだろうか?それを知りたいと思った氷堂は、さらに孝雄の話に耳を傾けることにした。しかしその後に知ることになったのは、成長に対するHuaweiの終わりなき執念と、日本も対象とした巧妙な営業戦略だった。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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