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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第42回 バングラデシュはアジアを席巻するのか

 バングラデシュ。それは時に「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれます。1990年代以降、東南アジア各国は大きな経済成長を遂げてきましたが、近年はそのペースも鈍化してきています。一方で南アジアには成長余力がまだ十分にある発展途上国が幾つもあり、その筆頭格がバングラデシュです。このバングラデシュは日本の4割ほどしか国土の面積がありませんが、そこに1億6000万人もの人口を抱えており、都市国家を除けば世界一の人国密度を誇るとも言われています。また余り知られていませんが、世界最大の外国人労働者の輩出国でもあります。
 
 この点で多くの日本人にとってバングラデシュは「地球の裏側の関係のない国」に思えるかもしれません。しかしそうは言っていられなくなる日も近いと予想されます。例えば現在日本に来ている外国人実習生の過半数はベトナム人ですが、彼らの劣悪な労働環境が社会問題になっており、またベトナム自体の賃金水準も上昇している事を考えると、そう遠くない内にベトナムから労働者が集まらなくなる可能性があります。そうなった際の最有力候補となるのがバングラデシュです。バングラデシュは国策として外国人労働者の輩出に力を入れているため、もしかすると2050年くらいの日本では、街角で大勢のバングラデシュ人を見かけるようになるかもしれません。このような将来が予見される訳ですので、今からバングラデシュについて知識を蓄えておく事は賢明です。
 
 また日本経済の脆弱性を俯瞰しても、バングラデシュとの関係を強化する事は重要と言えます。例えば過去に日本は東南アジア諸国に莫大な援助を行っており、1990年代までは当地におけるプレゼンスを維持する事が出来ていました。しかし2000年代以降はその地位を中国に完全に奪われており、近年は韓国にも貿易の分野で負ける場面が目立ってきています。この厳しい経済環境の中で日本が生き残っていくには、まだ開拓されていない南アジアに投資の軸足を移す事が必要です。この点でバングラデシュにはまだまだ投資余地があるため、早い段階で日本がこの国を開拓できるなら、この地域におけるプレゼンスを確保し、それが日本の国益に繋がる事でしょう。ですからバングラデシュについて知っておくことは肝要なのです。
 
 ではどうすればその実態を知る事が出来ますか?それを知るには統計を調べなければなりません。統計は雄弁です。例えば日本とバングラデシュの間の統計を調べれば、これまで日本がどれだけバングラデシュに援助や投資を行ってきたか、更にそれがどれだけ効果を上げてきたかを知る事ができます。これは過去の両国の歩みを振り返ると共に、現在の両国が抱える問題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
 
 一方で日本の統計だけでなく世界の統計にも注目する必要もあります。近年バングラデシュは世界各国から投資を集めており、隣国のインド、そして中国は勿論の事、欧米企業からもバングラデシュに積極的な投資が集まっています。もし日本がバングラデシュへの投資を強めても、それを上回る勢いで諸外国が投資を行うなら、日本のプレゼンスは相対的に低下します。ですから世界の統計を調べる事は重要です。
 
 とはいえ統計だけでは見えて来ない分野があります。それはそこで暮らす人たちの実際の生活です。特にバングラデシュは極めて貧富の差が大きい国と言われており、1日1ドル以下で生活する最貧困層も無数に存在します。そしてこういった弱者の方々の声は、なかなか統計には現れないものです。それ故に現地の人々の実際の生活に注目する必要もあるのです。
 
 この点で私は海外の港湾で会社を経営していますが、バングラデシュのチッタゴン港にも取引先がおり、彼らとの取引を通してバングラデシュの貿易に関する最新のトレンドを知る事ができています。加えて港湾というものはその国の経済の縮図です。悲しい話ですが、バングラデシュの港湾には児童労働をさせられている子供たちが無数におり、ここほど貧富の差を垣間見る事ができる場所も世界でそう多くはないでしょう。私はこういった厳しい現実をこの目で見ているため、バングラデシュについて語る上で確かに有利な立場にいます。
 
 それで今日は「バングラデシュはアジアを席巻するのか」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本とバングラデシュがこれまでどのように関係を深めてきたかを俯瞰します。次に世界の統計を通して、バングラデシュに世界各国の投資がどれだけ集まってきて、それがどのように経済成長に繋がっているかを考慮します。最後に私自身の海外での会社経営の経験も踏まえながら、貧富の差が非常に激しいこの国に対して、日本は国としてどのように向き合うべきなのか、その考察を述べていきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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