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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第50回 OPECプラスはどこへ向かうのか?

 2023年4月初頭、OPECプラス加盟国は相次いで原油を減産する方針を発表しました。例えば筆頭格であるサウジアラビアは年末にかけて日量50万バレルの減産を発表、更にイラクやUAE、カザフスタンなどの他の加盟国も歩調を合わせました。今回の減産量はOPECプラス全体で日量116万バレルに達する見込みで、これは市場に大きな衝撃を与えました。
 
 例えば4月2日のニューヨーク原油市場では、取引指標であるWTI先物価格が1バレル81ドルまで上昇しています。2023年は年初から、世界経済の減速や金融不安の影響で原油価格は下落傾向にあり、一時期は70バレルを下回っていましたが、今回の発表を受けて急上昇に転じた格好です。このように現在OPECは世界経済の鍵を握っているといっても過言ではなく、彼らのさじ加減一つで世界中の国々が振り回されています。
 
 しかし考えてみますと、OPEC自体は古くからある組織であり、以前であれば生産調整も米国の意向をある程度汲み取って行われていました。しかし近年はそれが難しくなってきています。例えば今回の減産調整に対しても米国政府は不快感を露わにしていますが、それを完全に無視する形でOPECプラスは減産に踏み切っています。確かにこれは10年ほど前までは見られなかった事態です。
 
 そして言うまでもない事ですが、このOPECプラスを巡る世界の潮流は、日本経済にも甚大な影響を与える可能性があります。特に日本はOPECプラス加盟国からの原油輸入が全体の輸入量の殆どを占めているため、彼らが日本の生殺与奪の権を握っていると言っても過言ではないでしょう。それ故にOPECプラスについて、日本国民の一人一人が正しい理解を得る事は極めて重要です。
 
 ではどうすればそれを得る事ができますか?この点で統計は重要です。OPECプラスの生産調整によって、これまで原油価格はどのように推移してきましたか?またそれにより日本の市場価格や輸入量はどのような影響を受けてきましたか?統計を考察するならば、こう言った質問に対する答えを得る事が出来ます。それはOPECプラスのこれまでの歩みと共に、今後の彼らの方向性も明らかにしてくれるかもしれません。
 
 一方で統計だけは読み取れないものがあります。それはOPECプラス加盟国の国民の「生の声」です。OPECプラスの加盟国の多くは、歳入の大部分を石油の輸出が占めています。言い換えるなら、彼らが生産調整をして価格を維持するのは国民の生活を守るためでもあります。そしてその国民の暮らしや彼らの声というものは、残念ながら統計からはなかなか見えて来ないものです。ですからOPECプラスについて正しい理解を得たいと思うのであれば、統計に加えて加盟国の国民の声に耳を傾ける事も必要と言えます。
 
 この点で私はマレーシアの港湾でコンテナリースの会社を経営していますが、現在の弊社の最大の取引相手国はサウジアラビアです。彼らとのビジネスについては過去のnoteの中で何度も触れてきましたが、サウジアラビアはこれまで長い期間にわたって外国人観光客にビザを発給して来なかった事から、その実態を知る日本人は相当少ないと思われます。一方で私は今も1~2か月に一度のペースで現地を訪れ、取引先と商談を重ねています。それ故に私は現地の人々の「生の声」を聞く上で、かなり有利な立場にいると言えます。
 
 それで今日は「OPECプラスはどこへ向かうのか?」というテーマでコラムを書きます。最初にOPECの成り立ちとその目的を俯瞰します。次にOPECプラスの統計を通して、彼らの生産調整がどのように原油価格に影響を与えてきたのかを考えます。最後に私個人の海外における会社経営の経験を踏まえながら、今後のOPECプラスの方向性と、更にその中で私たち個人がどのように立ち振る舞うべきなのかについて、その考察を述べたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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