見出し画像

「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第43回 食料危機は本当に起きるのか?

 2022年12月、国際連合食糧農業機関(FAO)は「食料と農業の展望」と題する新たな報告書を発表しました。この報告書では、「現在世界の食糧事情は急増する人口を養う点で脅威にさらされており、もしこのまま社会経済および環境の変化が見られなければ食料システムの持続は不可能だ」と警告しています。国連機関が食料問題について、ここまでのレベルで警鐘を鳴らすのは非常に珍しい事です。この報告書に関しては日本では余り報道されていませんが、実は世界各国のメディアが大きなニュースとして取り上げています。
 
 確かに今年ほど食料危機が報じられた年はありません。特にロシアによる侵攻でウクライナの穀倉地帯が大きなダメージを受け、更に黒海における戦局はその輸出を妨げるものとなりました。これを受けて小麦価格は高騰し、国際指標であるシカゴ商品取引所の小麦先物価格は一時1ブッシェル13.4ドルまで跳ね上がりました。これは2008年以来、14年ぶりとなる高水準です。
 
 ところがその後小麦価格は右肩下がりになり、最近は1ブッシェル7ドル近辺で推移しています。これはウクライナ戦争前の水準と大差ありません。この点で2023年春のウクライナの小麦の収穫量は例年の半分以下になると見られており、問題自体が過ぎ去った訳ではないにもかかわらず、価格だけは安定基調に入っている状況です。
 
 では何故このような価格の推移になるのでしょうか。それは小麦やトウモロコシといった食料に投資マネーが入っているからに他なりません。食料の取引価格というものは先物取引の影響を強く受けます。その結果、ある時は実勢価格より高くなり、またある時は実勢価格より低くなります。ですから食料危機が起きるかどうかを本当に知りたいなら、この商品の先物取引の仕組みを熟知する事が必要です。それを知らないなら、乱高下する価格に一喜一憂する事になってしまうでしょう。
 
 加えて統計も重要です。世界の食料に関する統計を精査すれば、価格に左右されない実需について理解する事ができます。これまで世界の食料事情はどのように推移してきたでしょうか?更に現在、その需要を満たすだけの供給がありますか?統計を調べるなら、私達はこういった質問に対する答えを得る事ができます。
 
 特に日本においてこれは大切な事と言えます。日本は食料自給率が非常に低いことが知られており、それは多年にわたる課題として認知されてきました。にもかかわらず、近年も食料自給率は下がり続けています。一方で食料自給率だけを見ても余り意味がありません。例えば日本のエネルギー自給率は、食料自給率と比較しても遥かに低い水準で推移しています。極端な話ですが、幾ら食料自給率が高くても石油を輸入できなければ、トラクターすら動かすことができません。ですから複数の統計を比較考慮するなら、食料事情に関する実態を見抜く事ができるでしょう。
 
 この点で私は海外の港湾で会社を経営しているため、世界の貿易の最前線のトレンドを俯瞰する事ができます。また弊社のコンテナは穀物の輸送に使われる事も少なからずあり、その仕向地には中国・東南アジア・中東・アフリカ・欧州などが含まれます。私はこういった国々の港に実際に足を運んで輸出入の現場を実際にこの目で見ると同時に、現場レベルの担当者からリアルタイムで情報を得る事も出来ています。ですから私はこの食料問題を語る上で有利な立場にいます。
 
 それで今日は「食料危機は本当に起きるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に海外の統計を通して、世界の食料事情がこれまでどのように推移してきたのかを振り返ります。次に日本の統計を通して、今の日本が抱えている食料事情の実態を浮き彫りにします。最後に私自身の海外での会社経営の経験も踏まえながら、今後日本はこの食料問題にどのように対峙するべきかについて、私なりの提言を述べたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
 

ここから先は

7,268字 / 10画像
マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?