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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第5回 日本の食料自給率は大丈夫なのか?

 現在日本では食品の値上がりが社会問題になっています。確かに昨年から今年にかけて、大手メーカーの牛乳、ヨーグルト、焼きそば、缶詰、清涼飲料水など、1000品目以上の食品で価格改定が行われ、値上げが実行されました。「食品は値上がりするのに、給料は上がらない」と嘆く消費者も少なからずおり、このような値上げが行われる度に、それがニュースで報道されてきました。

 一方で「ステルス値上げ」という言葉も最近は良く聞かれる様になりました。これは価格を据え置く代わりに、内容量や数量を減らす事で実質的な値上げを行いますが、消費者の多くはその内容量の調整に気付きません。この点で、航空機やミサイルが敵のレーダーから早期発見されないようにする施策を「ステルス」と言う事から、「ステルス値上げ」という造語が用いられるようになりました。特にお菓子の業界などでこの手法が用いられている事が知られています。

 この様に食品の値上げが各所で実施されている訳ですが、その大きな要因は何でしょうか?それは原材料(飼料も含む)価格の高騰です。そして日本では、その原材料の多くは輸入品となっています。つまり輸入品の原材料価格が高騰すれば、それを企業努力の中だけでカバーするのは不可能であるため、結果的にメーカーも値上げせざるを得なくなっている訳です。

 この点で日本は、輸入原材料の高騰の影響を諸外国よりも受けやすい立場にいます。なぜなら食料自給率が低いからです。日本の食料自給率は諸外国と比べても低水準であり、食料の供給を輸入品に大きく依存しています。その為、海外の原材料価格が高騰すると、諸外国以上に影響が大きくなってしまうのです。この食料自給率の低下は何十年にもわたって続いており、現時点でも上昇の糸口をつかむことができていません。

 しかしある方々は次の様に考えるかもしれません。

「別に食料なんて、輸入品に頼れば良いではないか。みんな農業や畜産業には就きたくないのだし、食料自給率はずっと下がってきたけれど、大きな問題など起きていないではないか」。

 確かにこの考え方には一理ある様に思えます。しかし、もし日本の食料自給率が更に低下すると、どういった問題が生じるのかを熟考した事がある日本人は多くはないかもしれません。

 この点で統計は雄弁です。戦後、日本の食料自給率は低下の一途を辿ってきましたが、それは日本の経済政策に大きな影響を与えてきました。この統計を分析するなら、これまでに生じた問題を振り返ると共に、今後の問題を予期する事ができます。

 更に食料自給率に関しては、日本国内の情報だけでなく、諸外国の情報も参照する事が重要です。なぜなら日本の食料自給率が低下しているという事実は、他のどこかの国の食料の輸出が増えている事を意味しています。また日本だけでなく、諸外国の食料自給率の推移を調べるなら、現在の世界における日本の立ち位置を確認する事が出来ます。

 この点で私は複数の国にまたがる海運会社を経営している事から、食品の輸入及び輸出の第一線を目の当たりにしてきました。そして各国が抱える問題点についても、各国の輸入者の当事者から話を聞く機会に恵まれてきました。それらを鑑みて言うならば、この食料自給率の問題とは、日本だけの問題ではなく、グローバル経済が抱える問題そのものと言えます。

 それで今日のコラムでは、日本の食料自給率について考察していきたいと思います。主に農林水産省の統計を基に、現在の日本の食料自給率についての最新の状況を確認していきたいと思います。併せて海外の統計も参照する事により、現在の世界における日本の立ち位置も確認していきます。長文ですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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