見出し画像

「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第40回 イスラム教は世界を席巻するのか

 いよいよカタール・ワールドカップが始まりました。世界中のフットボールファンが固唾を呑んで見守っていると思いますが、今回は「イスラム教国で初めて開催されるワールドカップ」という面でも注目を集めています。実際これまでのワールドカップの殆どはキリスト教国で実施されてきました。例外的に日韓ワールドカップの様なキリスト教以外の国で行われたケースもありましたが、イスラム教の戒律が非常に厳しい中東で行われるのは異例中の異例です。そのため会期中には様々な軋轢や問題が生じるのではないかとも危惧されています。
 
 実際にカタール元代表のハリド・サルマン氏は、ドイツ民放ZDFが放映したドキュメンタリー番組の中で、「同性愛は精神の傷であり、トーナメントに参加するLGBTの人々は我々のルールを受け入れるべきだ」と語りました。この発言には大きな批判が集まりましたが、既に開催前から物議を醸している状況です。
 
 しかし一方で見方を変えるならば、カタールの様な国でワールドカップを開いているという事実は、イスラム教国がそれだけ経済力を付けている事の証左とも言えます。実際1990年代では有り得なかった事でしょう。ここで一つ重要な質問が生じます。それは「今後イスラム教は世界を席巻するのか?」というものです。これは21世紀の人類が決して避けて通れない質問です。
 
 ではどうすればその答えを知る事ができますか?この点で統計は有用です。統計を調べればイスラム教徒の人口がどの様に推移してきたか、またイスラム教国の経済規模がどのように伸長してきたかについて、正しい理解を得る事ができます。それは過去の歩みを振り返ると共に、現在彼らが抱えている問題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
 
 これは日本も同様です。日本におけるイスラム教に関連した統計を調べる事は非常に有用です。なぜなら現に外国人労働者の増加によりイスラム教徒の数は増えていますし、更にインバウンドの増加に伴い、イスラム教国からの外国人観光客は年々右肩上がりになっています。例えば2022年11月からは、UAEから日本へ旅行する外国人のビザの事前申請が不要になりました。これにより来年以降、いわゆる「アラブの大金持ち」の来日も大幅に増える事も期待されます。
 
 しかし一部の極端な見方をする日本人は、「郷に入れば郷に従え。イスラム教徒など日本に不要だ」と主張するかもしれません。ただ忘れてはならない事実として、日本は石油や天然ガスなどの殆どをイスラム教国からの輸入に頼っています。もし彼らとの関係が毀損されて貿易が滞れば、困るのは日本の側です。イスラム教国は日本以外にも輸出先を幾らでも見つけられますが、日本は彼らから輸入できないと死んでしまいます。ですから統計を精査し、それを基に良好な関係を探るのは重要なのです。
 
 とはいえ統計だけで全てが見えてくる訳でもありません。統計に加えて、実際のイスラム教徒の生活に注目する事は大切です。特にイスラム教は国によって世俗化の度合いが様々です。中東諸国の様に戒律が厳しい国もあれば、一部の東欧の国の様にアルコール飲料の摂取が常態化している国もあります。こういった各国の世俗化の差異というものは統計からは見えて来ず、実際にその地で生活をしたり、ビジネスを行う事によって初めて見えて来るものです。
 
 この点で私はイスラム教徒ではないものの、マレーシアの港湾で会社を経営しています。マレーシアはイスラム教徒が人口の60%以上を占めている国で、特に行政関連に従事する人々の殆どはイスラム教徒であるため、彼らの習わしを理解していないと仕事が円滑に進みません。更にマレーシアの港湾では約18000人が働いているのですが、その9割以上がバングラデシュやパキスタンからの外国人労働者です。彼らもまたイスラム教徒であるため、私は彼らの生活に毎日に触れています。加えて弊社はサウジアラビアを始めとした中東にも数多くクライアントがいるため、頻繁にそれら中東各国に出張で出掛けます。ですからイスラム教徒とのビジネスを語る上で、私は有利な立場にいると言えます。
 
 それで今日は「イスラム教は世界を席巻するのか」というテーマでコラムを書きます。最初に世界の統計を通して、近年イスラム教国がどれだけ経済力を付けてきたかを振り返ります。次に日本の統計を通して、日本におけるイスラム教徒の数や外国人観光客の近況を考察します。加えて私自身の海外における会社経営の経験を踏まえながら、今後日本はどのようにイスラム教と対峙してくべきかについて、私見を述べたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
 

ここから先は

5,345字 / 8画像
マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?