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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第66回 日本の法人税は適切なのか?

 2023年11月、国税庁は「令和4事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要」という資料を発表しました。この資料には昨年度の法人税の申告や課税についての詳細が書かれているのですが、それによりますと、申告所得額は前年対比で+7.0%の85兆106億円となり、過去最高を記録しました。また申告税額も14兆9099億円で前年対比+7.1%となっており、日本全体がコロナ禍を抜けて、企業の収益が改善していることを読み取れます。
 
 このように法人税収は景気に左右されることもあり、その税率に関しては長きにわたり、議論の的になってきました。例えば法人税率の引き下げと同時期に消費税が増税されてきたこともあり、「消費税は法人税の穴埋めに使われてきた」と主張する政治家もいます。また「法人税を上げれば企業は納税を避けるため、その分賃金を上げるはずだ」と主張する有識者もいます。どちらも主にリベラル系の方々に良く見られる主張ですが、こういった議論が観察されることからも、私たち一人一人が法人税について正しい理解を得ることは大切と言えます。
 
 ではどうすればその実態が分かりますか?この点で統計は有用です。統計を見れば、これまで日本の法人税率がどのように推移してきたか、またそれにより法人税額がどれだけ増減してきたのかを理解できます。こういった統計を調べることで、私たちは日本における企業活動の過去の歩みを知ることができるのと同時に、現在抱える構造的な問題も理解できるかもしれません。
 
 一方で日本の統計だけでは不十分です。海外の統計も重要と言えます。確かにこれまで日本は法人税率を引き下げてきましたが、これは日本だけではなく、全世界共通に見られる傾向です。もしその中で日本だけが増税すれば、本店を日本から海外に移転してしまうかもしれませんし、同時に海外からの投資も集まらなくなります。何より現況でも日本の法人税の実効税率はアジアで最高水準にあるため、これ以上増税すれば、間違いなく製造業の国内回帰の流れは止まるでしょう。それ故に海外の統計を精査することも重要です。
 
 ただ統計からだけでは読み取れない分野があります。それは法人税を納める企業経営者たちの「生の声」です。日本では赤字企業が過半数を占めています。言い換えるなら法人税を免除になっている事業者が多数を占めており、「一部の納税額の多い企業が、法人税全体のかなりの部分を納めている」という状況が見られます。こういった企業経営者が対峙しなければならない問題や苦悩というものは、当然ながら統計からは余り見えてきません。経営者の声に耳を傾けて、初めて理解できるものです。ですから「生の声」に耳を傾けることも大切なのです。
 
 この点で私自身は香港とマレーシアで会社を経営していますが、両国とも法人税の実効税率が日本よりも低く、いわゆる節税目的で法人を設立する外資系企業が多く見られます。また私は長らくコンテナリース業界に従事していますが、オペレーティングリースの金融商品は企業の節税対策にも用いられるため、法人税を圧縮するために投資する経営者も少なからずいます。私はこういった人たちと常に接してきましたので、「生の声」を聞くという点で、確かに有利な立場にいます。
 
 それで今日は「日本の法人税は適切なのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、法人税の税率や税収がこれまでどのように推移してきたのかを振り返ります。次に海外の統計を通して、日本の法人税の特異性を浮き彫りにします。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、日本の法人税の問題点を考察するとともに、進むべき方向性について提言をしたいと思います。特に個人で投資をされている方や、企業経営者の方にご覧いただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
  

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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