見出し画像

「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第23回 サウジアラビアとは一体どんな国なのか?

 2022年3月17日、岸田総理大臣はサウジアラビアのムハンマド皇太子と電話会談を行いました。ロシアとウクライナの戦争を受けて、今後日本では深刻なエネルギー危機が生じる危険性があり、その対応を検討する為に設けられたのがこの会談でした。この会談を通して岸田総理大臣は、サウジアラビアに対して原油の安定供給を依頼したと言われています。

 確かに日本は原油の全てを輸入に依存しており、その中でもサウジアラビアは、日本にとって最大の取引相手国です。ですからサウジアラビアの動向に日本の未来が依存していると言っても過言ではありません。ところが日本人の多くは、サウジアラビアという国がどういう国なのか、その実態を殆ど知りません。これは言い換えるなら、生殺与奪の権利を握られている相手を全く知らない状態です。

 とはいえ、そうなるのも無理もないことかもしれません。例えばサウジアラビアは、「世界で最も入国が難しい国」の一つと考えられてきました。これはサウジアラビア政府が長年にわたり、外国人に対して観光ビザを発給して来なかった事に起因しています。このような背景もあり、日本にとってサウジアラビアは長年謎に包まれた国でした。

 ではそのような中にあって、どうすれば実態を知る事ができるでしょうか?この点で統計は雄弁です。統計は嘘をつきません。例えば日本・サウジアラビア間の貿易統計を調べれば、これまでの両国の関係がどのように推移してきたのかを読み取る事ができます。それを知る事で、現在日本が抱える問題や、将来の課題なども考察する事ができるかもしれません。

 一方で日本の統計だけを見ても余り意味がありません。海外の統計にも注目する必要があります。特にサウジアラビアの様な原油輸出国の場合はそう言えます。日本にとってのサウジアラビアは、原油輸入における世界最大の取引先ですが、一方でサウジアラビアにとっての日本は、数ある取引国の一つに過ぎません。それで日本との統計に加えて世界の統計も調べるなら、サウジアラビアの世界における正確な立ち位置を理解する事ができます。

 とはいえ統計だけでは見えて来ない分野もあります。それはサウジアラビア国民の実際の生活です。サウジアラビア人は一体何を考え、どのように生きているのでしょうか?こういった点は当然ながら統計からは見えてきません。統計というものはあくまで行動の結果です。ですから国民の行動を知った上で統計を読む事は、実態を知る上で必要不可欠と言えます。

 この点で日本とサウジアラビアは地理的にも文化的にも非常に遠い距離にありますが、私が住んでいるマレーシアはかなり近い関係にあります。それは両国に「イスラム教」という共通項があるからです。例えばイスラム教徒は、財力や体力が許すのであれば、一生のうちに一度はメッカへ巡礼に行く事が勧められています。実際毎年イスラム歴の第12月になると、世界中から多くの外国人がメッカ巡礼に出かけており、その中には無数のマレーシア人も含まれます。この点でサウジアラビアは、外国人に対して観光ビザは殆ど出して来なかったものの、巡礼ビザに関しては積極的に発給してきたため、メッカを訪れるマレーシア人の数も毎年相当数に上ります。現に「生まれて初めて行く海外がサウジアラビアだった」というマレーシア人も一定数おり、両国の親密度を伺う事ができます。

 加えて弊社は港湾の会社ですが、サウジアラビアにも複数の取引先があります。サウジアラビアの玄関口であるジッダ・イスラミック港はスエズ運河の入り口にあり、中東と欧州を結ぶハブ港としても知られています。この点で私はサウジアラビアの会社と定常的に連絡を取り合い、取引を継続していますが、日本人でサウジアラビア人とビジネスをしている人は相当少ないに違いありません。そしてその殆どは石油産業に従事する人たちで、それ以外の産業で実際にビジネスをしている私の様な人間は、恐らく極めて少数でしょう。ですから私はサウジアラビアについて語る上で、確かに有利な立場にいると言えます。

 それで今日は「サウジアラビアとは一体どんな国なのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本・サウジアラビア両国間の貿易の歴史を振り返ります。次に世界の統計を通して、サウジアラビアの現在の世界における立ち位置を確認します。更に今後日本はどのようにサウジアラビアと向き合うべきなのかについて、私自身の経験も含めながら、その考察を書いていきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

ここから先は

6,643字 / 7画像
マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?