「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第47回 コロナ禍での企業救済策は適切だったのか?
2022年9月末日、この日をもって政府がコロナ禍における企業救済策として始めた実質無利子・無担保の融資、通称ゼロゼロ融資の受付が終了しました。このゼロゼロ融資は、本来借主が金融機関に支払うべき利子を3年にわたって国や都道府県が負担する制度で、5年間は元本の返済も猶予されています。しかしその利払いがいよいよ2023年の春から始まろうとしており、これを支払えずに経営危機に陥る中小企業が続出するのではないかと懸念されています。
確かにこのゼロゼロ融資は倒産抑制に一定の効果を上げました。実際2022年6月末時点での融資実績は実に234万件に上り、融資総額は42兆円という天文学的な金額に達しました。加えて政府は金融機関に支払う利息分だけで1.8兆円の予算を確保しました。このようにゼロゼロ融資はコロナ禍における企業救済策の一つの目玉であり、これで助けられた企業も多かった事でしょう。
しかしその一方で「ゼロゼロ融資はゾンビ企業を延命させている」という批判もあります。確かにゼロゼロ融資はコロナ禍で売上が落ちた企業のみならず、コロナに関係なく赤字が定常化していた様な企業にも実行されました。そういった企業にとってゼロゼロ融資は渡りに船で、この融資のおかげで事業を継続できた会社も少なくないと思われます。
さてこのゼロゼロ融資は一例ですが、日本ではコロナ禍で企業に対して相当な補助金や助成金が支払われてきました。例を挙げれば持続化給付金や家賃支援給付金、一時支援金・月次支援金、そして雇用調整助成金などです。個人に対する支援金が一人10万円程度だった一方で、企業に対する支援金はかなりの金額に及びます。そのため、「日本政府は個人よりも企業を重視している。不公平だ」と主張する人は少なからず見られます。
では日本のコロナ禍での企業救済策は本当に過剰だったのでしょうか?それは統計を見れば理解できます。統計は正直です。コロナ禍でどれだけの規模の補助金・助成金が企業に対して注がれたのか、更にそれがどれだけの企業の救済に繋がったのか、こう言った点を統計は教えてくれます。ですから統計を精査する事は重要と言えます。
一方で日本の統計だけを見ても余り意味がありません。海外の統計も調べる必要があります。海外の多くの国は日本よりも一足早くコロナ禍から抜け出し、日常生活を取り戻しました。これは喜ばしい事ではありますが、その反面、それは政府からの補助金や助成金が打ち切られた事も意味します。ではそういった国の経済は、支援の終了によりどのような影響を受けたのでしょうか?こういった点の統計を調べるなら、日本のコロナ禍における企業救済策の特異性が改めて見えてくるでしょう。
しかし統計だけでは見えて来ない分野もあります。それは「経営者たちの生の声」です。コロナ禍で社員の人たちも苦しい思いをしたと思いますが、それ以上に資金繰りの面で多くの経営者は苦しい状況にあったに違いありません。そして当然の事ですが、経営者の人数は社員の人数よりも遥かに少ないです。故に意識して経営者の声に意識して耳を傾ける事は、コロナ禍での企業救済策の実効性を振り返る上で非常に重要と言えます。
この点で私はマレーシアで会社を経営していますが、マレーシアはコロナ禍で厳しいロックダウンを何度も行い、エッセンシャルワーカー以外の経済活動は全て停止しました。にもかかわらず、政府による支援は日本と比較して微々たるものでした。更に弊社は各国の港湾にも取引先がいる事から、彼らの声も聞く事も出来ています。ですから「経営者の生の声に耳を傾ける」という点においては、自身の経験においても取引先との繋がりにおいても、私は確かに有利な立場にいると言えます。
それで今日は「コロナ禍の企業救済策は適切だったのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、コロナ禍における企業救済策がどのように実施されたのかを振り返ります。次に海外の統計を通して、日本の企業救済策が海外のそれと比較してどのように特異だったのかを考えます。最後に私自身の海外での会社経営の経験を踏まえながら、今後の日本の中小企業経営の在り方について、考察と提言を述べていきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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