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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第20回 日本の労働組合は機能しているのか?

 連合は日本最大の労働組合の中央組織として知られていますが、彼らは2021年に行われた衆議院選挙に関して、立憲民主党と共産党などが行った野党共闘について批判的な総括を行いました。確かに労働環境を変革するには制度や法律を改正する必要があり、連合がその為に特定の政党を支持するのは理解できます。しかし一方で選挙以外の場面で、連合の活動に注目が集まる事は余りありません。本来の労働組合の目的は「労働者の待遇の改善」なので、選挙よりもその活動や実績に焦点が当てられるべきですが、それについて熟知している日本国民は決して多くはないでしょう。

 それもそのはずです。日本型雇用において、労働組合が果たす役割は年々低下しています。例えば日本では「失われた30年」という表現が良く使われます。実際この30年間、日本の賃金は殆ど上昇してきませんでした。これは政治の責任でもありますが、本来であれば労働者の賃金を上げる点で最も大きな役割を担うのは労働組合です。ですから賃金が上がってこなかったという事実は、労働組合がこの30年間機能してこなかった事の証左と言えるかもしれません。

 また日本には「労働組合」という言葉を聞いただけで、拒否的な反応を示す人が少なからずいます。これは60~70年代に頻発した労働争議に端を発しているのかもしれませんが、「賃金が上がっていない」という明白な事実がある訳ですから、偏見にとらわれる事無く、労働組合の活動を総括する必要があるでしょう。

 ではどうすれば日本の労働組合について正しい理解を得る事ができますか?この点で統計は雄弁です。過去の統計を調べれば、労働組合の活動と実績を知る事ができます。それにより、現在労働組合が抱える問題や将来の方向性についても理解する事が出来るかもしれません。

 一方で日本の統計だけを見ても余り意味がありません。世界の統計に注目する必要があります。21世紀に入り、世界経済のグローバル化はますます速度を上げています。日本だけが特殊な雇用環境を遵守していたとしても、それが原因で世界の中で競争力を失うなら、何の意味もありません。これは労働組合も同様で、世界の労働組合の統計や動向を調べる必要があります。そうする事で日本の労働組合が抱える問題点を、より正確に、よりフラットな立場で理解する事ができるでしょう。

 ただし統計だけでは見えない面もあります。それは「労働組合の実際の活動」です。例えば、「労働組合は日頃何をやっているのだろうか」と疑問に思われる方も少なくないと思います。一方で経営者として、労働組合との労使交渉に臨んだ経験がある方も少ないと思います。このような「労働組合の実際の活動」に関しては、統計からはなかなか見えて来ず、自身が経験して初めて理解できるものです。

 この点で私は海外の港湾で会社を経営していますが、港湾という業界は日本を含めて労働組合が非常に強い力を持っている事で知られています。また私は独立する前は香港で勤務しており、労働者の立場で、海外の労働組合の活動に関与してきました。一方で現在はマレーシアで会社を経営しており、雇用主の立場で毎年労使交渉に臨んでいます。特に海外の港湾では労働争議からストライキに至る事も少なくなく、労使間に緊張感のある関係が保たれています。私はこういった経験をしているので、この労働組合の問題に関して語るのに確かに有利な立場にいます。

 それで今日は「日本の労働組合は機能しているのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、これまでの日本の労働組合の歴史や実績を振り返ります。次に海外の統計を通して、日本の労働組合がどのような点で異質なのかを浮き彫りにしていきます。加えて私自身の海外の港湾における会社経営の経験を通して、その統計を裏打ちしていきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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