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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第11回 日本はODAを払い過ぎなのか?

 近年日本は経済不況に苦しんでいます。特にこのコロナ禍で消費は停滞し、GDPも大きく落ち込みました。このような状況の中で良く出てくる意見が、「自分の国がこれだけ大変な中で、他国を援助している余裕があるのか?」というものです。言い換えるなら、ODA(政府開発援助)が必要なのか?という議論です。

 この点で戦後日本は焼け野原から復興しましたが、当然ながらその復興に至る過程の中で、アメリカをはじめとした国々から受けた経済援助は大きな役割を果たしました。日本もこの経緯に倣い、1954年にはODAに加盟して海外に対する技術協力を始め、1958年からは円借款も開始しました。ちなみに日本が初めに円借款を行った国はインドでした。それから既に60年以上が経過し、日本のODAは成熟期を迎えたと言っても過言ではありません。

 しかし一部の人たちが主張する、「日本は経済的に厳しいのだから、ODAなど一切止めるべきだ。その予算を日本国内に向けるべきだ」という意見は、余りにも暴論と言えます。なぜならODAは発展途上国や新興国を助けるという意味合い以上に、それらの国々を援助する事で、将来の貿易取引先を確保するという意味合いがあるからです。つまり「援助」であると同時に、「投資」でもあるのです。この投資を止めるならば、短期的には良くても、中長期的な貿易の力は確実に弱まり、日本経済の凋落は避けられないでしょう。ですからバランスが必要なのです。

 この点でバランスが取れているのかを測るバロメーターがあります。それは統計です。ODAに関する日本の過去の統計を見るならば、その支出額がどのように推移してきたのかを知る事ができます。一方で日本だけの統計に注目するだけでは不十分です。世界各国のODA関連の統計を知る事も肝要です。なぜならODAは日本だけが行っているものではありません。殆どの先進国がODAの支出を行っています。もし日本がODAの支出額を上げても、世界各国が同様にODAの支出額を上げているなら、途上国や新興国における日本のプレゼンスは期待するほど上がらないでしょう。逆に日本がODAの支出額を下げたとしても、同じく各国も支出額を下げているなら、プレゼンスを維持できるかもしれません。ですからこの点で、世界の統計を俯瞰する事は非常に重要と言えます。

 一方で統計だけでは理解できない分野もあります。例えばODAの用途は多岐に及びますが、その中でも大きな位置を占めるのは当該国のインフラ支援です。このインフラが本当に機能しているのかについては、統計だけではなかなか見えてきません。なぜならODAはインフラを整える事が主な目的で、そこから先の保守運用に関しては当該国に委ねられるケースが多いからです。またそのインフラが本当に使い勝手の良いものなのか、またはそれが地元の人々の生活にどれだけ役に立っているかについては、統計では見えて来ないものです。ですからODAの効果を図るには、「統計」だけではなく、「実際の評判」を知る事も不可欠と言えます。

 この点で私は複数の国に跨る会社を経営している事から、世界中の港湾に取引先がいます。特に港湾というものはODAの資金援助、技術援助の最たる例で、多くの途上国の港湾にはODAの資金が注入されています。そして私はこういった現場の最前線の人たちから、忖度ない評判を聞くことができています。ですから「実際の評判」を聞くという点で、私は有利な立場にいると言えます。

 それで今日は、「日本はODAを払い過ぎなのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、これまでの日本のODAの推移について振り返ってみたいと思います。次に世界のODAの統計を通して、日本のプレゼンスがどのように変遷してきたのかも考察していきます。加えて私が港湾の現場で実際に見てきた経験も書きたいと思います。特に近年、日本がODAを減らす中で、中国がどれだけ途上国を援助してきたか、そしてそれがどれだけ世界経済に支配的な影響を及ぼしているかについても書きたいと思います。長文ですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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