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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第31回 インドネシアは世界の大国になれるのか?

 2022年7月7日から8日にかけて、インドネシアのバリ島にてG20の外相会合が開催されました。日本からは林外務大臣が出席しましたが、「ロシアの外相であるラブロフ氏のいる社交の場には出席できない」という理由で、彼は夕食会を欠席しました。一方のラブロフ氏も議論の途中で退席するなどして、会合は終始緊張した雰囲気に包まれていたと言われています。この中で存在感を示したのが、他でもない議長国のインドネシアです。この会合にはG20の代表者に加え、10のオブザーバー国の代表者と20の国際機関も参加しており、難しい舵取りが求められましたが、インドネシアはプレッシャーのかかるこの会合の場を、手落ちの無いように上手く切り抜けました。その手腕には参加国の代表者たちからも評価の声が上がっています。
 
 確かにインドネシアは東南アジアにおける最重要国として、国際社会の中で存在感を示してきました。実際にブルームバーグ社が出した2050年における世界のGDPランキングの予測では、インドネシアは中国・アメリカ・インドに次ぐ世界4位にまでランクを上昇させると考えられています。その時、日本は6位にランク付けされており、インドネシアはGDPで日本を凌駕する可能性が高い状況です。このようにインドネシアは今後も高い成長率が期待できるために、世界中の投資家から注目を集めています。
 
 しかし多くの日本人が持つインドネシアの印象と言えば、「長年日本が援助をしてきた発展途上国」という段階で止まってしまっているかもしれません。更に近年では、日本が進めてきた高速鉄道のプロジェクトに関して、日本との約束を急に反故にして中国に乗り換えた事が思い返されるかもしれません。そのために一部の識者の中にすら、「インドネシアは信頼に値しない国」という評価を下しているのが実情です。
 
 ではどうすればインドネシアの実態を知る事ができますか?この点で統計は有用です。統計を精査すれば、日本がこれまでどのようにインドネシアに対して援助や投資を行ってきたのか、その実態を理解する事ができます。それは過去の歩みと共に、現在の日本とインドネシアの間で起きている問題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
 
 一方で日本の統計だけを見ても余り意味がありません。世界の統計を俯瞰する必要があります。インドネシアは世界でも稀に見る高度経済成長を続ける国として、世界中の国や企業から投資を集めています。確かに日本はインドネシアに莫大な金額の投資を行ってきましたが、その金額が海外のそれと比較して少ないなら、そこから刈り取れる果実にも限界があるかもしれません。こういった点を理解するためにも、世界の統計を俯瞰する事は重要と言えます。
 
しかし統計だけでは見えて来ない分野というものがあります。それは国民の生の声です。確かにインドネシアは高度経済成長が続き、それに伴い一人当たりGDPも飛躍的に上昇しています。これは国民の所得が上がっている事を意味しますが、一方で物価上昇率もかなり高く、所得の上昇が生活水準の向上に繋がっていると一概には言えない状況です。加えて首都ジャカルタはとてつもないスピードで開発が進められていますが、一方で地方には未開のジャングルも無数にあり、基本的なインフラすら通っていない場所も少なくありません。当然の事ながら、そういった地域で生活する人たちの声というものは、統計には現れないものです。ですから生の声に耳を傾ける事は重要です。
 
 この点で弊社はインドネシアとも非常に深い取引があります。特にジャカルタ郊外にあるインドネシア最大の港であるタンジュンプリオク港には、幾つものクライアントがおり、彼らからインドネシア経済、特に貿易の分野に関して、最前線かつ最新の情報を得る事ができています。更に国内第三の港であるメダン島のベラワン港にもクライアントがいます。このベラワン港はコンテナ取扱数ではタンジュンプリオク港に次ぐ規模となっていますが、その港湾の設備にはかなりの差があり、これもインドネシアが抱える「首都と地方の格差」を表わす象徴となっています。こういった点を私は実際にこの耳で聞き、この目で見ているという点で、インドネシア経済を語る上で確かに有利な立場にいます。
 
 それで今日は「インドネシアは世界の大国になれるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本とインドネシアの両国間の歩みを振り返ります。次に世界の統計を通して、経済成長を続けるインドネシアに対して、現在世界中からどのように投資が集まっているのかを考察します。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、今後日本はどのようなスタンスでインドネシアと対峙していくべきなのか、その私見を述べていきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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