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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第52回 日本の英語教育はどこが問題なのか?

 2023年4月、小中学生を対象にした全国学力テストが行われましたが、中学英語の「スピーキング」の項目において、今回から初のオンライン形式で問題が出題されました。全国学力テストは子どもたちの学力を把握し、それを今後に活かす目的で行われていますが、今回から導入された新しい方式は、日本の英語教育の未来を占う上で一つの試金石となっています。
 
 このように今、日本の英語教育は試行錯誤を繰り返しています。国際化が進む中で英語の必要性は一層認識されるようになっており、これまでの日本の英語教育は既に時代に即さないものとなっているという声も聞かれます。ただその一方で「今後はAIによる翻訳機などが更に発展し、英語という言語そのものの価値が落ちる」と予測する識者もいます。このように英語教育については専門家の中でも意見が割れており、統一した見解を見出すのが難しい状況です。
 
 ではどうすれば日本の英語教育について、その実態を知る事ができますか?この点で統計は有用です。統計を調べれば、日本人の英語力がどのように推移してきたのか、ある程度の理解を得る事が出来ます。それは現在の日本の英語教育の問題を浮き彫りにすると同時に、将来の進むべき方向性も教えてくれるかもしれません。
 
 一方で日本の統計だけでは不十分です。海外の統計も同時に調べる必要があります。例えば確かに過去と比較すれば日本の英語力は上がっている様にも見えますが、諸外国が日本以上のペースで英語力を付けてしまえば、相対的に日本のランクは落ちてしまいます。特に21世紀に入って以降、東南アジアをはじめとした新興国の国々も英語教育に力を入れており、それらの国々は着実に成果を上げてきています。故に日本だけでなく、海外の統計に注目する事も大切です。
 
 とはいえ統計だけでは見えて来ないものもあります。それは英語で仕事をしている人たちの「生の声」です。例えば同じ外資系であっても、日本国内にある外資系企業の多くはクライアントが日本企業であるため、商談や書類作成など多くの場面で日本語が用いられます。一方で実際に海外に住んで現地の企業で勤めるケースでは、日本語の使用量がグッと少なくなり、ほぼ英語だけで仕事を進めなければならなくなります。このように一口に「外資系」と言っても求められる英語力は様々であり、外資系企業だからといって十把一絡げで語る事はできません。加えて英語教師を目指すのでもない限り、企業は英語力そのものよりも、その人の持つ専門性を重視するものです。こういった実情というものは、統計にはなかなか現れてくる事がなく、英語で仕事をしている人たちの話を聞いて初めて理解できるものです。それ故に「生の声」に耳を傾ける事は大切です。
 
 この点で私は英語話者です。無論英語教師ではありませんが、現在マレーシアで会社を経営しており、その中に日本人は私しかおらず、全てのコミュニケーションは英語で行われています。とはいえ私自身も昔から英語が得意だった訳では全くなく、学生時代の順位は常に最下位に近いレベルでした。しかし20代半ばになってから本格的に勉強を始め、幸いな事に現在は海外で会社を経営しています。その中で私が見出した結論は、「日常英会話は難しいが、ビジネス英会話は難しくない」というものです。仮に英語が苦手でも、ビジネスで使用する事だけに特化して勉強をすれば、誰でも比較的容易にそのレベルまで達する事は可能だと考えます。こういった経験を実際にしてきたという点で、私は英語教育に関して語る上で有利な立場にいます。
 
 それで今日は「日本の英語教育はどこが問題なのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、これまでの日本の英語教育がどのような道を歩んできたのかを振り返ります。次に海外の統計を通して、日本の英語教育と海外の英語教育の相違点を考えます。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、日本の英語教育の短所だけでなく長所も俯瞰し、それを改善していく上での提言を述べます。「ビジネスに必要な英語のスキルとは何なのか」、「AI化が進む中で英語の役割はどう変化するのか」、こういった点も併せて考察していきたいと思います。特に英語を学ぶビジネスパーソンには必見です。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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