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Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第50話 マハティールが残した功罪

前回の話はこちらから
 
https://note.com/malaysiachansan/n/na04b92fb0b7d

 この話は2022年11月まで遡る。マレーシアのポートクランでコンテナリース会社を営む氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、仕事を終えて行きつけの中華料理店へと向かった。氷堂は毎週月曜日にこの店で夕食を楽しんでいるのだが、店に入ると奥の方で常連たちが何やら大いに盛り上がっている様子だった。彼らの話に耳を傾けてみると、その内容はつい先日行われた選挙についてであった。
 
 マレーシアでは2022年11月19日に第15回総選挙が行われた。この選挙においては最大野党が支持を伸ばして政権交代に至り、同時にイスラム原理主義政党の大躍進もあった。このような大きな政情の変化が生じた選挙であったため、国民の関心も非常に高く、投票率は70%を大きく超えた。彼らが盛り上がるのも、ある意味当然だ。
 
 さて氷堂がビールを飲んでいると、一人の男性がその団体客の中から出てきて氷堂に声を掛けてきた。
 
「あ、リツさんじゃないですか!ご無沙汰しています。」
 
 声を掛けてきたのは、この店の常連の一人であるロバートだった。ロバートは名前こそ欧米風だが、30代後半の中華系の男性で、同じくポートクランで不動産関連の会社を営んでいる。マレーシアにもキリスト教徒が一定数いるのだが、ロバートもその一人で、彼らは欧米風の呼称を自ら付けるのが習慣だ。そして氷堂とロバートは経営者という境遇や年齢が近い事もあり、何度か飲みに行った事もある間柄だった。
 
 そのロバートが言った。
 
「リツさん、もし宜しければ私たちの宴会に参加してください。今日はみんなで今回の選挙を振り返って盛り上がっているんです。何よりも大きなニュースとして、今回の選挙では憎きマハティールが遂に落選しました。こんなに喜ばしいことはないですよ!」
 
 その言葉を聞いて、氷堂は少し耳を疑った。マハティールとは1981~2003年、及び2018~2020年まで首相を務めたマレーシアを代表する政治家だ。マハティールの知名度は日本でも群を抜いており、ご存知の方も多いかもしれない。それは彼が標榜した「ルックイースト政策」によるものに他ならないだろう。
 

 
 ルックイースト政策とはマハティール政権が推進した政策で、1960年代から70年代にかけて高度経済成長を成し遂げた日本をベンチマークとして、その労働倫理を規範とする様にマレーシア国民に働きかけたものだ。この影響は絶大で、マレーシア人の50代以下の世代の殆どが日本に対して好意的な印象を持っている。そして日本でもマハティールの功績は高く評価されており、2018年に日本政府は彼に対して桐花大綬章を付与している。そのマハティールがここまで酷評され憎まれているのは、日本人の氷堂にとって少し意外な事であった。
 
 それで氷堂はロバートに答えた。
 
「ロバートさん、こちらこそご無沙汰しています。ではお言葉に甘えてご一緒しても宜しいでしょうか?」
 
 こうして氷堂はロバートの誘いを受け入れる事にした。氷堂は知りたかった。日本では聖人君子のように扱われているマハティールが、なぜそこまで憎まれているのかを。しかしその後に氷堂が耳にしたのは、想像を超えた彼が残した功罪だった。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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