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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第14回 日本の航空業界はコロナ禍を乗り切れるのか?

 ご承知の通り、このコロナ禍で最も大きなダメージを受けた産業の一つが航空業界です。コロナ前、日本の航空業界は非常に好調に推移していましたが、コロナにより入国制限が課された事により、状況は一変しました。国際線の殆どがストップしたため、コロナ前の売上を大きく割り込む事になりました。確かにJALとANAの2社は非常に大きな赤字幅を記録しています。日本の両翼とも呼べるこの2社の落ち込みは、航空業界のみならず、日本全体の景気動向にも暗い影を落としています。

 しかし世界に目を向けてみると、日本の航空会社はまだマシな状況です。なぜなら国内線を有しているからです。確かに日本国内のコロナの感染拡大により、国内線の搭乗率も大きく落ち込みました。しかしそれでも50%程度の搭乗率を維持している路線も少なくなく、最低限の売上を維持する事は出来ています。

 一方で世界には更に経営状況の芳しくない航空会社もあります。その筆頭に挙げられるのが、小国のナショナルフラッグです。例えばシンガポールならシンガポール航空、カタールならカタール航空などがこれに該当しますが、こういった国々は国土が小さすぎる為、国内線が存在しません。当然その路線全てが国際線で運用されており、その国際線がコロナにより殆ど止まってしまった状況では、売上を立てる手段すら見つからない状況に陥りました。ですからこういった国々の航空会社は、日本の航空会社以上に厳しい経営状態に立たされています。

 しかし一筋の光明としては、このコロナ禍で航空貨物の取扱量が大幅に増加した点を挙げる事ができます。これが航空会社の収益を下支えに繋がっています。この航空貨物の増加の最大の理由は、コロナで海上物流が大きく乱れた事にあります。世界中でコンテナ不足が発生し、通常の数倍のコスト、数倍の納期を必要とするケースが頻発しました。こういった海運の乱れを回避するため、航空貨物が増大した訳です。弊社もコンテナリース会社として、この海運の乱れを目の当たりにしてきましたが、コンテナを手配できない為に海上輸送を諦めて、航空便にシフトした荷主も少なからずいます。そのために航空貨物の運賃も急騰しており、これが航空会社の収益の下支えに繋がっています。

 ではこのコロナ禍を日本の航空会社は乗り切る事が出来るのでしょうか?この点で統計は雄弁です。統計を調べるなら、どの程度航空会社が経営面でダメージを被ったかを知る事ができます。加えて航空貨物の売上が、どの程度経営の下支えになったかも知る事ができます。

 しかし日本の統計だけを調べても余り意味がありません。航空業界は世界中の航空会社がしのぎを削るレッドオーシャンです。日本の航空会社がコロナで弱体化する間に、海外の航空会社の経営状態が急回復すれば、仮に日本の航空会社がこのコロナ禍を乗り切ったとしても、世界市場におけるプレゼンスは弱まってしまうでしょう。だからこそ、海外の統計も重要なのです。

 それで今日は「日本の航空業界はコロナ禍を乗り切れるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の航空会社の統計を通して、このコロナ禍で彼らの経営がどれほど影響を被ったかを考えます。次に海外の統計を通して、世界の航空会社がこのコロナ禍で受けた影響を推察すると共に、日本の航空会社の現在の立ち位置を再確認していきたいと思います。併せて私自身が港湾の現場から見た航空業界に関して記します。海上物流の乱れは、航空貨物にどのような影響を与えたでしょうか?この点についても考察していきます。

 更に私自身、コロナ前には年に50回以上国際線に乗ってきた、シンガポール航空の最上級会員です。といっても東南アジアを主戦場にするビジネスマンが国際線に乗る頻度は、日本人のそれとは全く異なります。例えばクアラルンプール空港とシンガポール空港の間の距離は約300kmしかなく、これは東京~名古屋間とほぼ同じ距離です。また時間にしてわずか50~60分のフライトで、1日あたり40本以上も本数がある世界で最も往来の多い路線です。たった月に2回、両国を出張で行き来するだけでも、往復で4フライト、年間で48フライトに到達します。加えて私はサウジアラビアを筆頭に、中東地域にも何度も出張を重ねてきました。この搭乗経験から見えてきた、「21世紀における飛行機の役割」という私見も併せて論考していきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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