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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第28回 日本では貯蓄から投資への流れが起きるのか?

 2022年5月、自民党の経済成長戦略本部は「新しい資本主義」の一つの姿として、「1億総株主」なるものを提言しました。この提言では、「日本人は資産の内訳において現金や預金の割合が欧米と比較すると突出しているため、今後はこれを株式や信託投資に切り替えていく必要がある」と提唱されています。そしてその為にNISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充も検討されている様です。
 
 確かに日本はこの30年間賃金が上がらず、経済は停滞してきました。その一方で物価は今後も上昇していくでしょう。更に少子高齢化の影響で、年金の受給額も下がっていくと考えられています。その為、これまでの貯蓄主体の資産構成では、老後の生活資金を十分に賄えない可能性が高いと考えられています。今の日本はこういった厳しい状況下にあるので、政府は積極的に貯蓄から投資への転換を進めている訳です。
 
 しかしここで重要な疑問が生じます。日本人は本当に欧米と比較して、資産の中で貯蓄の割合が大きいのでしょうか?そうだとすれば、何が要因なのでしょうか?こういった疑問に対する答えを見つけるには、統計を調べる必要があります。統計は雄弁です。統計を調べれば、日本人の貯蓄額が過去にどのように推移してきたのか、正しい実態を知る事ができます。それを知る事で、今の日本が抱えている構造的欠陥も浮き彫りになるかもしれません。
 
 一方で日本の統計だけに注目しても余り意味がありません。海外の統計にも目を向ける必要があります。海外は日本と比較して、貯蓄よりも投資に充てる割合が大きいと言われています。ではなぜそうなったのでしょうか?これらも統計を調べれば、実態が見えてきます。そしてこういった海外の統計を調べる事で、現在の日本の世界における正確な立ち位置も見えてくるでしょう。
 
 ただ統計だけでは見えて来ない分野もあります。それは「人々の実際の生活」です。例えば海外では投資が活発だと言われていますが、その反面、海外では日本と比較して物価も確実に上昇しています。実際、諸外国の多くが高いインフレ率に悩まされています。こういった国々では、物価の上昇率が賃金の上昇率を上回るため、投資をしないと資産が目減りしていってしまうという現実があります。そして仮に投資で資産が増えても、物価も上がっているので生活自体は楽になりません。こういった「人々の実際の生活」というものは、当然ながら統計からは余り見えてきません。ローカルの人達と話して初めて深く理解できるものです。ですから統計だけでなく、人々の話に耳を傾ける事は肝要と言えます。
 
 この点で私は海外での生活が長く、また自身で会社も経営している事から、様々な国に取引先がいます。その中には先進国は勿論ですが、新興国や途上国も含まれており、そういった国々の人達からも、母国における投資事情を聞く事ができています。加えて弊社はコンテナリース会社ですが、コンテナリースは世界共通の富裕層の節税対策の王道として知られています。実際私も前職においては、世界の富裕層相手にコンテナリースの金融商品を開発し、販売してきました。余り認めたくない事実かもしれませんが、富裕層が行う「投資」と、一般人が行う「投資」では、全く意味が異なります。一般人は投資で負ける事が多いですが、富裕層は殆どの場合で勝ち続けます。それは儲かる条件、もしくは負けない条件の投資が、富裕層の元には集まるからです。実際富裕層は投資により資産を増やし、同じく投資により資産を防衛もします。その様子をこの目で見て来たという点で、私は投資の在り方について語る上で有利な立場にいると言えます。
 
 それで今日は「日本では貯蓄から投資への流れが起きるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本人の貯蓄額や投資額がこれまでどのように推移してきたのかを振り返ります。次に海外の統計を通して、日本の貯蓄や投資の実態が、海外のそれと比較してどのように異質なのかを確認します。加えて私自身の経験を含めながら、日本においても貯蓄から投資への流れが起きるのか、更には投資を行う意義についても考察していきたいと思います。長文になりますが、最後までお読み頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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