「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第80回 世界最大の国家間協力組織「上海協力機構」の実態とは?
2024年2月22日、中国の外交部長である王毅氏は、北京で開催された上海協力機構の事務局創立20周年レセプションに出席し祝辞を述べました。上海協力機構は6カ国の加盟国(中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン)からスタートした国家間協力組織でしたが、現在では加盟国9カ国、オブザーバー国や対話パートナー国まで合わせると、26カ国まで規模を拡大しています。
一方で日本においては、この上海協力機構が話題に上ることはほとんどありませんし、マスコミでもめったに扱われません。ただこの組織の実態を理解しておくことは大切です。なぜならこの組織の動向が、日本の国益に直結するからです。例えば上海協力機構の主要加盟国である中国とロシアは、日本と海を挟んで隣に位置します。昨今、彼らがどういった国々と協調を深めているのかを理解することは、国防の観点からも極めて重要です。
また上海協力機構には、インドも含まれています。中国とインドは政治的には犬猿の仲ですが、経済的には強い繋がりを持っています。逆に日本とインドの関係も深く、両国は単なる二国間関係を超えた「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」という協定を結んでいます。加えて上海協力機構にはイランも含まれていますが、中東でアラブ諸国と対立を強めるイランの動向は、日本のエネルギー政策にも大きな影響を与えます。このような国際情勢を鑑みれば、上海協力機構の動向から目が離せないはずです。
ではどうすればその実態が理解できますか?この点で統計は有用です。統計を調べれば、上海協力機構の加盟国やオブザーバー国、対話パートナー国がどのように推移してきたのかを理解でき、それぞれの国の経済がどのように結びついているのかが分かります。それは彼らのこれまでの歩みを教えてくれると同時に、現在抱える課題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。それ故に統計は大切です。
同時に海外の統計だけでなく、日本の取り組みにも注目する必要があります。日本は上海協力機構と距離を置いていますが、一方で「中央アジア+日本」対話と呼ばれる独自の枠組みを構築してきました。この枠組みは2004年に当時の川口外務大臣の下に立ち上げられましたが、これが本当に成果を上げてきたのか、検証する必要があります。それにより、現在の中央アジアにおける日本のプレゼンスについても、正しい理解を得ることができるでしょう。
ただ統計だけでは見えて来ない分野もあります。それは現地で暮らす人々の「生の声」です。特に上海協力機構の構成国は非西側諸国であるため、その実態が日本のマスコミで伝えられることは余りありません。ただ近年はこれらの国々も経済力を付けてきており、国民の暮らしも豊かになってきています。こういった人々の生活の実態というものは、統計からは見えて来ず、彼らの声に耳を傾けて初めて理解できるものです。そう考えると、確かに「生の声」は重要と言えます。
この点で私はマレーシアの港湾で会社を経営していますが、上海協力機構の複数の加盟国と取引があります。例えば中東において、イランは上海協力機構の加盟国ですが、西側諸国から経済制裁を課された結果、現在99%の日本企業はイランとの取引を止めているものと思われます。しかしながら、マレーシアはイランとの関係が良好で、旅行者や学生も多数来ており、弊社も日系企業ではないことから、イランとも間接的に取引があります。同時にイランと敵対関係にあるサウジアラビアも、上海協力機構の対話パートナー国であり、弊社は彼らとも取引があります。こういった状況を目の当たりにしていることから、私は「生の声」を聞くという点でも、確かに有利な立場にいます。
それで今日は『世界最大の国家間協力組織「上海協力機構」の実態とは?』というテーマでコラムを書きます。最初に世界の統計を通して、この組織がどのように伸長を続けてきたのかを俯瞰します。次に日本の取り組みを通して、日本政府がどのように独自のパイプを作ろうとしてきたのか、過去の経緯を振り返ります。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、日本の進むべき方向性について、私見と提言を述べたいと思います。国際情勢やアジアとのビジネス、貿易や商社関連に関心がある方には、特にご覧いただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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