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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第45回 イラクは今どうなっているのか?

 イラク戦争が開始されたのが2003年でした。ですから今年で20年が経過しようとしています。ご記憶の方も多いと思いますが、当時アメリカはイラクが大量破壊兵器を保持していると主張し、「イラクの自由作戦」の名の下に軍事介入を始めました。しかしご承知の通り、肝心の大量破壊兵器の発見には至らず、それどころかイラク国内の治安は悪化の一途を辿り、治安維持の目的で戦闘は続けられました。結局オバマ大統領によって戦争の終結が宣言されたのは2010年で、翌2011年には米軍の完全撤退に至りました。このイラク戦争が残した傷跡は非常に深く、WHOの「イラク家庭健康調査」によれば、推定で15万1000人の民間人が亡くなったのではないかと言われています。
 
 さてこのようにイラク戦争は21世紀における最初の大きな戦争であり、その後の米軍の撤退は新しい世界秩序への分水嶺となりました。しかしその後のイラクはどうなっているのでしょうか。恐らく殆どの日本人は知らないでしょう。それも無理もない事です。日本に限らず西側のメディアは、米軍撤退後のイラク情勢に関して殆ど取り上げなくなったからです。
 
 しかし考えてみて下さい。日本はイラクと非常に長い期間にわたり友好関係を築いてきました。その繋がりは湾岸戦争やイラク戦争が生じる遥か昔からあり、それまでの間、両国は貿易も活発に行われてきました。ですから現在のイラクの実態について知ることはとても肝要です。それを知る事によって、現在の日本の国際社会の中での立ち位置も再確認する事が出来るからです。
 
 ではどうすれば実態を知る事ができますか?この点で統計は有用です。統計は嘘を付きません。例えば貿易統計を調べれば、日本とイラクの間のモノの動きを知る事が出来ます。それは両国のこれまでの関係の深さを測ると同時に、今両国が抱えている問題も明らかにしてくれるかもしれません。
 
 同時に日本の統計だけでなく、海外の統計に注目する事も大切です。例えば近年のイラクは中国から莫大な金額の投資を受けています。アメリカが見捨てた後に中国がその穴を埋めるのも何とも皮肉な話ですが、実際にそれは起きており、現在のイラクの国内情勢は台頭する中国のプレゼンスを垣間見れる点で世界情勢の縮図にもなっています。それでこういった点について理解を深めるには、世界の統計にも注目する必要があるでしょう。
 
 とはいえ統計だけでは理解できない分野もあります。それはそこで暮らす人々の生の声です。2011年に戦争が終結した際、イラクには焼け野原になった都市が無数にありましたが、近年のイラクは着実に復興が進んでいます。例えばバグダッドには新しいビルが建設され、経済成長率も著しい伸びを見せています。こういった現地で暮らしている人たちが、今どんな問題と対峙ししているかについては、残念ながら統計にはなかなか現れません。生の声に耳を傾けて初めて理解できるものです。ですからそれは重要なのです。
 
 この点で弊社は海外の港湾で会社を経営していますが、イラクの最大の港であるウンム・カスル港にも弊社の取引先がいます。恐らく石油関連以外の分野で、イラクの企業と取引がある日本人は相当少ないと思われます。特に日本の外務省はイラクの大部分の地域に対して退避勧告や渡航中止勧告を出している為、実際の状況を知る人はかなり少数でしょう。それで確かに私は現地の生の声を聞く上で、有利な立場に居ると言えます。
 
 それで今日は「イラクは今どうなっているのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本とイラクの関係がこれまでどのように推移してきたのかを振り返ります。次に世界の統計を通して、米軍撤退後のイラクがどういった国からの投資を受けて経済成長を遂げてきたかを俯瞰します。最後に私自身の海外での会社経営の経験も踏まえながら、今後の日本がどのようにイラクと対峙していくべきかについて提言を述べたいと思います。長文ですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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