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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第75回 日本で40代以降のリストラは増えるのか?

 2024年2月29日、資生堂のCOOである藤原憲太郎氏は社員向けの動画を発表し、大規模な早期退職募集を行う意向を明らかにしました。その社員数は実に1500人に及び、日本事業の従業員の1割超に相当します。何より周囲を驚かせたのが、その対象者です。今回の早期退職は、45歳以上・勤続20年以上を対象としており、これまで会社を支えてきた中堅社員がリストラの危機に面している状況です。
 
 同様の事例が他の企業でも見られます。2024年2月26日、オムロンは国内で1000人、海外で1000人、計2000人の人員削減計画を発表しました。オムロンの連結従業員数は約2万8000人なので、2000人が退職すれば7%の人員削減になります。この直接的な原因は中国事業の不振によるものですが、こちらも国内でリストラの対象となったのは、勤続3年以上・40歳以上の正社員でした。こういった40代以降の中堅社員のリストラは、ここ最近になって顕在化しており、今後は一つの大きなムーブメントになる可能性もあります。
 
 確かに考えてみますと、労働者にとっての日本企業の魅力とは、安定した雇用にあったはずです。特にJTCと呼ばれる典型的な日本の大企業においては、新卒一括採用と終身雇用がセットで用意され、大卒で就職さえできれば、生涯食うに困らないという状況が長きにわたり続いてきました。しかしもし今後40代のリストラが増えるとするならば、彼らは人生設計を大きく見直す必要が生じます。JTCの社員の多くはその一社しか経験したことがなく、いきなり人材市場の荒波に放り出されることになるからです。
 
 では今後、日本の雇用、特に40代以降の雇用はどこへ向かうのでしょうか?この点で統計は有用です。日本では就職氷河期に大きな雇用の谷を経験していますが、統計を調べれば、この世代のその後について、より正確な理解を得る事が出来ます。それは過去の日本経済の歩みを教えてくれると同時に、現在の日本が抱える構造的な問題も明らかにしてくれるかもしれません。
 
 しかし日本の統計だけでは不十分です。海外の統計も調べる必要があります。このグローバル化が進んだ21世紀においては、モノだけでなく「人材」も国境を跨ぎます。日本にも大勢の外国人労働者が働きに来ていますし、逆に海外で働く日本人も増えています。また「企業」も同様です。例えば日本国内においても外資系企業の数が増えていますが、これらの企業は総じて高賃金である一方で、雇用は国内企業より不安定で、比較的容易に解雇される傾向にあります。こういった事例を比較考慮するならば、私たちは国際社会における日本の雇用の正確な立ち位置を知ることができます。ですから海外の統計も重要なのです。
 
 ただ統計からは見えないものもあります。それは当事者たちの「生の声」です。リストラは当人だけでなく、その家族の人生にも大きな影響を及ぼします。一方でリストラを宣告しなければならない経営者も楽ではありません。会社を存続させるために、また残された多数の社員の雇用を守るために、リストラせざるを得ない場面は出てくるものです。こういったリストラをされる社員の声、逆にリストラを断行する経営者の声というものは、当然ながら統計には現れず、彼らの話に耳を傾けて初めて理解できるものです。それゆえに「生の声」も大切なのです。
 
 この点で私は20代を横浜の港湾で費やしました。そこは典型的な日本の中小企業で、雇用こそ安定していましたが、その反面、労働時間は長く、低賃金の職場でした。その後30代は香港に渡り外資系企業で働きましたが、そこでの競争は熾烈で、成果を上げられずに会社を去る人たちを大勢見てきました。また仮に成果を上げても、部署ごと閉鎖になるケースも少なからずありました。そして今はマレーシアで会社を経営しており、必要に応じて社員をリストラする立場にあります。こういった経験を重ねてきましたので、このリストラの問題について語る上で、私は確かに有利な立場にいます。
 
 それで今日は「日本で40代以降のリストラは増えるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、過去において日本の雇用市場がどのように変遷してきたのかを振り返ります。次に海外の実例を通して、諸外国における中高年のリストラの実態を深掘りします。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、日本の雇用政策に関する考察を述べると共に、これから来るであろうリストラ時代に向けて、どのようなキャリアプランニングを踏むべきなのか、具体的な提言を述べたいと思います。将来的に転職を考えている30代・40代の方には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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