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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第48回 日本はフィリピンとどのように対峙すべきなのか?

 2023年2月9日、岸田首相は来日したフィリピンのマルコス大統領と首相官邸で会談を行いました。この会談の中で岸田首相は、2024年4月までにODAと民間投資を合わせて、約6000億円の支援の実施を約束しました。更に両首脳は、自衛隊が人道支援や救援活動でフィリピンに派遣される際の手続きを円滑化する点でも合意に至りました。
 
 このように現在日本政府はフィリピンとの関係を非常に重視していますが、それも当然の事です。現在東シナ海および南シナ海では、中国の領海侵犯が大きな懸念材料になっています。この点でフィリピンも日本と同様に中国と領有権を争っており、経済面での関係強化は安全保障面での強化にも繋がります。確かに日本にとってフィリピンは重要な隣人です。両国の外交関係は非常に長く、また多くの日本企業がフィリピンに投資しています。今後もこの傾向は続いていくでしょう。
 
 一方でフィリピンが抱える特有の問題もあります。例えば最近も日本の強盗殺人事件の主犯格がフィリピンに潜伏し、逮捕された後も刑務所から犯人グループに指示を出していた事件がありました。これも刑務所の職員が賄賂を受け取っていたが故に可能になっていた様ですが、このような汚職や賄賂が今もフィリピンでは横行しています。この点でドゥテルテ前大統領は強権的な政治によって一定の成果を上げましたが、それでも汚職レベルは引き続きASEAN最悪レベルで、これが経済成長の足かせともなっています。
 
 このようにフィリピンという国には様々な側面がある訳ですが、その中で日本は今後どのように彼らと対峙するべきなのでしょうか?この点で統計は有用です。統計を調べれば、これまで日本がフィリピンに対してどれだけ投資を行ってきたのか、その正確な理解を得る事ができます。特に日本にとってのフィリピンは、世界最大のODA支援国の一つです。そしてこれまでの支援が本当に有効に活用されてきたかについては、統計を調べれば明らかになるでしょう。それは今後の両国の方向性も明らかにしてくれるかもしれません。
 
 一方で日本の統計だけではなく、海外の統計に注目する必要もあります。現在フィリピンには世界中から投資が集まっています。例えばコールセンター業務を含むBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング。企業運営上の業務やビジネスプロセスを専門企業に外部委託すること)業界において、フィリピンは世界屈指の投資先であり、多くの外資が業務を委託しています。このような海外の統計を精査する事によって、日本のフィリピンに対する投資の特異性や優位性を更に理解できるでしょう。
 
 しかし統計からは見えて来ない分野もあります。それは現地の人々の生の声です。特にフィリピンは貧富の差が大きい国として知られています。例えばASEAN諸国の中には、経済成長に伴いスラム街が姿を消した国もありますが、フィリピンでは数こそ減ってはいるものの、未だに様々な都市でスラム街が見られます。そしてこのような貧困層の人々の声というものは、なかなか統計からは見えて来ないものです。それ故に生の声に耳を傾ける事は重要と言えます。
 
 この点で私は海外の港湾で会社を経営していますが、取引先の中にはフィリピン企業も少なからず含まれます。特にマニラ港はコンテナ取扱量で世界38位にランクインされており、東南アジアの玄関口として、輸出入だけでなく近年は積み替えにも用いられるようになって来ています。そしてフィリピンに限った話ではないのですが、東南アジアの港湾労働者たちは、その国の極めて低い賃金水準で働いています。私はこういった貿易の最前線や貧富の差を目の当たりにしているという点で、フィリピンについて語る上で有利な立場にいます。
 
 それで今日は「日本はフィリピンとどのように対峙すべきなのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、これまで日本がフィリピンにどれだけの規模の投資を行ってきたのかを振り返ります。次に海外の統計を通して、フィリピンに対して近年どのように投資が集まってきたのかを俯瞰します。更に私自身の海外における会社経営の経験を踏まえながら、今後の日本がどのようにフィリピンと対峙していくべきかについて、考察と提言を書かせて頂きたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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