見出し画像

「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第7回 日本は中国依存から脱却できるのか?

 2020年の春から夏にかけて、どこにもマスクが売っていなかったのを覚えておられる事と思います。あの時期、私は一時的に日本に帰国していたのですが、高い店ではマスクの値段が1枚50円以上していた様に記憶しています。この頃に問題視されたのが、「サプライチェーンの中国依存」です。中国政府がサプライチェーンをコントロールし、マスクの輸出量を極端に絞る事によって、マスクの相場を世界的に、そして意図的に上げているという非難が起きました。そして中国はマスクを外交の手段にも用いていた為、「マスク外交」という言葉まで現れました。それほど当時はマスクを調達するのが困難でした。

 これはほんの少し前の出来事ですが、遠い昔に起きた出来事の様に感じる方も少なくないでしょう。人はほとぼりが冷めると忘れてしまいがちですが、この当時、「サプライチェーンを中国から第3国(日本を含む)に移管するべき」という世論がかつてないほど高まりました。そして実際にその世論に動かされる形で、日本政府も様々な助成金や補助金の枠を創出しました。しかしその後、そういった助成金や補助金がどのように使用されたのかについては、殆ど報道されません。それどころか、実際にサプライチェーンの移管を行った企業があったのかどうかすらも、日本の報道で見る事はまずありません。

 あの騒動から1年、なぜこのような中途半端な結果になったのでしょうか?それは日本経済が中国に大きく依存しているからに他なりません。とはいえ一方で、「日本がどの程度中国に依存しているのか?」という点を論理立てて説明できる人は多くありません。なぜならテレビに出てくるコメンテーター達の多くは、「どの程度依存しているのか?」、「なぜこれまで依存してきたのか?」、「なぜ依存するのは良くないのか?」、「代替案はあるのか?」等の本質的な議論に触れる事は殆ど無く、「一部の政治家が中国と結びついている」といった様な、視聴者を扇動するのに勝手の良い文言ばかりを述べているからです。これでは本質を掴む事は不可能です。

 ではどうすれば実態を知る事ができるのでしょうか?この点で統計は雄弁です。日中間の貿易統計を調べれば、過去の貿易の実態を知る事ができます。併せて今後この2国間が抱えるであろう問題も推察する事ができます。それに加えて、日本と中国の2国間の統計だけでなく、世界における中国の立ち位置を考察する事も重要です。なぜなら、例えば東南アジアはこの20年間で「世界の工場」として大きな進展を遂げてきましたが、その影響で中国のサプライチェーンが縮小した訳では無く、逆に拡大の一途を辿ってきたからです。こういった世界的な潮流を知る事も、今後の日本の貿易の行くべき道を考察する上で非常に重要です。

 この点で弊社は複数の国にまたがる事業を展開しており、その取引先には当然中国の会社も含まれますし、東南アジアの会社も含まれます。加えてコンテナという商材を扱っている関係で、言わば「貿易の最前線」を目にする事も出来ています。その為、この問題に関して全体を俯瞰できる優位な立場にいます。

 それで今日は、「日本は中国依存から脱却できるのか?」というテーマでコラムを書きます。まずは幾つかの貿易統計を基に、「現在日本がどれだけ中国に依存しているのか」という現状を考慮します。次にグローバル経済の中で、中国のサプライチェーンがどれほど重要な役割を果たしてきたのかも考えます。更に私が現場の最前線で目にしてきた「中国依存の実態」も踏まえながら、今後私たちが進むべき方向性について考察していきたいと思います。長文ですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

ここから先は

6,586字 / 6画像
マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?