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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第30回 日本の投票率は何故低いのか?

 2022年7月10日、第26回参議院議員通常選挙が実施されます。昨年の衆議院議員選挙に引き続き2年連続で行われる国政選挙ですが、この選挙の後には約3年にわたり大きな選挙は予定されていないため、今後の日本の方向性を定める上で重要な選挙と考えられています。一方で日本が抱えている問題は山積しており、特にロシア・ウクライナの戦争による国防の問題、それを引き金に生じている物価高の問題、更には円安の問題や新型コロナウイルスへの対応など、今回の選挙のイシューは非常に多いのが現状です。
 
 確かに「今回の選挙は重要である」という事に異論の余地はありませんが、一体どの程度の投票率になるのでしょうか?この記事を書いている段階(7月6日)では、選挙当日を迎えていませんので、正確な数値をお伝えする事はできません。ただ令和3年10月に行われた第49回衆議院議員総選挙の投票率は55.93%でした。また令和元年7月に行われた第25回参議院議員通常選挙では48.80%でした。今回の投票率に関しても追って数値が出てくると思われますが、それでも70%を超える水準まで伸びるような事は起きないと予想されます。
 
 このように日本では、国民の約半数が投票に行っていません。これに対して「投票に行かない人は国民の権利を放棄している。非国民だ」と非難する人もいます。確かにそのような発言が出てくる事も心情的には理解できます。しかし非難をしたくらいで状況が変わるのであれば、もう何十年も前にこの低投票率という問題は解決されているはずです。日本の投票率が一向に上がらない事には、何か日本特有の問題があるはずなのです。
 
 ではその問題とは何ですか?それを探る上で有用なのは統計です。統計は雄弁です。過去の日本の投票率に関する統計を調べれば、どの時点で投票率が減少に転じたのかを理解できます。それはその背景を明らかにすると共に、現在日本が抱えている構造的問題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
 
 ただ日本の投票率を見るだけでは不十分です。世界の国々と比較する必要があります。日本の投票率は50%前後を行き来している訳ですが、この点で他の国々はどうなっているのでしょうか?それらの数値と日本の数値を比較する時に、グローバル社会の中における日本の正確な立ち位置も理解する事ができるでしょう。
 
 ただし統計だけでは見えて来ない分野もあります。それは「有権者の声」です。例えば諸外国の中には投票率が90%を超える国々があります。では彼らは何故選挙に行くのでしょうか?一方で投票率が日本と同水準かそれ以下の国も、少ないながらも存在します。では彼らは何故選挙に行かないのでしょうか?こういった情報というものは、当然ながら統計だけでは見えてきません。有権者の声に耳を傾けて、初めて理解できるものです。ですから統計だけでなく、人々の声に耳を傾ける事も大切なのです。
 
 この点で私は海外で会社を経営しており、取引先もかなりの国の数に及ぶ事から、「海外の選挙がどういうものなのか」という点を目の当たりにして来ましたし、多くの人の声にも耳を傾けてきました。加えて選挙により政権交代が生じ、それによりその国の経済政策が変わり、その結果として自社の経営戦略も大きく変更を余儀なくされる、という経験もしてきました。こういった経験というものは海外で会社を経営しているからこそできているもので、恐らく従業員や学生という立場で海外に居住しただけでは得られない類のものだと思われます。ですからこの「投票率」という問題を語る上で、私は有利な立場にいると言えます。
 
 それで今日は「日本の投票率は何故低いのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本の投票率がどのように推移してきたのかを振り返ります。次に海外の統計を通して、海外と比較して日本の投票率が上がらない特有の事情を考察していきます。更に私自身の海外での会社経営の経験も踏まえながら、今の日本の選挙制度の問題点を抽出していきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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