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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第74回 TPPはどこへ向かうのか?

 2023年7月16日、日本を含む環太平洋経済連携協定(TPP)の加盟11カ国は、ニュージーランド・オークランドで閣僚会合を開きました。会合の中では英国の新規加入が全会一致で承認され、これによりTPPの経済圏が太平洋沿岸から欧州に拡大した事になります。一方で少し前の2021年9月には、中国と台湾の両政府が相次いでTPPに加盟申請したことも話題になりました。両国の駆け引きは今も続いており、水面下で激しい攻防が繰り広げられています。
 
 ただ振り返れば日本がTPPに加盟する際にも、非常に大きな議論が沸き起こりました。例えばJAは最後の最後までTPPの加盟に反対していましたし、日本共産党や社民党も反対の立場を貫きました。TPPは加盟国の経済に大きな影響を及ぼすものなので、国際的にも、また国内的にも様々な軋轢を生み出します。ですから、ここで一度立ち止まって、TPPの成果を検証するのは適切なことと言えます。
 
 ではどうすればそれが分かりますか?この点で統計は有用です。例えばTPPの発足は日本の貿易にどのような影響を与えましたか?特に恩恵を受けたのはどの業界ですか?逆に損害を被った分野はありますか?統計を調べれば、このような質問に対する正確な回答を得る事が出来ます。それは過去の日本経済の歩みを知ると同時に、現在の日本が抱える問題点も浮き彫りにしてくれるかもしれません。それ故に統計は重要です。
 
 ただ日本の統計だけでは不十分です。海外の統計も必要です。TPP発足後、早いもので数年が経過しましたが、加盟国の動向を見ると、明暗が分かれている状況です。加盟後に貿易が大きく伸長した国もあれば、ほとんど恩恵を受けていない国もあります。それでこれらの国々の状況を比較考慮するならば、国際社会における日本の正確な立ち位置も見えてきます。ですから海外の統計も大切です。
 
 ただ統計からは見えて来ない分野もあります。それは現場の「生の声」です。TPPは様々な商流に影響を及ぼしています。その恩恵を十分に受けている業界もあれば、逆にTPPの発足により、国内産業が打撃を受けているケースもあります。その悲喜こもごもは、統計からは見えて来ず、当事者の声に耳を傾けて初めて理解できるものです。ですから統計に加えて、「生の声」も肝要です。
 
 この点で私はマレーシアでコンテナリースの会社を経営しています。港湾は貿易の最前線です。そして弊社の取引先はASEAN全域に及び、それはTPPの加盟国とも重複します。そのため私は各国の荷主・物流会社・通関会社ともに常に緊密に連絡を取り合っており、彼らのビジネスの潮流やその課題をダイレクトに、またリアルタイムで聞くことができています。私はこのような立場にいますので、確かに「生の声」を聞くという点で有利な立場にいます。
 
 それで今日は「TPPはどこへ向かうのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、TPPの発足が日本経済にどのような影響を与えてきたのかを俯瞰します。次に海外の動向を通して、加盟国がどのようにTPPと向き合ってきたのかについて考えます。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、今後TPPがどのように発展していくかについて予測すると共に、日本が国際社会の中でどのような立場を取るべきなのか、提言を述べたいと思います。国際情勢に関心がある方や仕事で貿易に携わる方、さらには商社関連の株式投資に興味をお持ちの方には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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