見出し画像

「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第32回 日本の賃金は上がるのか?

 2022年6月22日、岸田首相は長野県軽井沢町で行われた経団連の会合に出席しました。その際に出席者に対し、「コロナ前の業績を回復した企業においては、3%以上の賃上げを実現して頂きたい」と述べました。この言葉からも分かるように、現在日本政府は企業に対して賃上げを強く訴えかけています。この賃上げが日本の喫緊の最重要課題と言っても過言ではないかもしれません。
 
 では日本の賃金は上がるのでしょうか?確かにロシアとウクライナの戦争をきっかけに物価は上昇に転じており、消費者物価指数も+2%に達しています。一方でもしこの状況で物価の高騰以上の賃金上昇が見られなければ、日本人の生活はデフレの時以上に苦しくなってしまいます。
 
 加えて賃金はこの30年間横ばいを続ける一方で、税金や社会保障費は増加の一途を辿ってきました。ですから手取りに関して言えば、逆に少なくなってきたと言えるかもしれません。これは結果として消費者に強烈なデフレマインドを植え付けてきました。そのため確かに最近は大企業を中心に賃上げの動きが見られるものの、それが中小企業にまで及び、ひいては社会全体の流れにまで波及するかは先が見えない状況です。
 
 ではどうすれば未来を予測できますか?この点で統計は重要です。統計は嘘を付きません。日本の賃金に関する統計を調べれば、過去にそれがどのように推移してきたかを知ると同時に、現在の問題点も浮き彫りにしてくれるかもしれません。特にこの日本においては、賃金に関する問題が非常に根深いものであるために、感覚的に話すのではなく、統計に基づいて話す事は重要と言えます。
 
 また日本だけの統計でなく、海外の統計に注目する必要もあります。なぜならこの30年間で日本の賃金が停滞する間に、海外の賃金は上昇を続けてきたからです。それは新興国のように伸びしろがある国は当然として、日本と同じような立場にある先進国の間でも賃金の上昇は見られました。ですから海外の統計と日本の統計を比較する事で、世界の中で日本が置かれた正確な立ち位置を理解する事ができます。
 
 しかし統計だけでは見えて来ない分野があります。それは経営者・社員、双方の「生の声」です。例えば賃金が上がらない社員は生活が苦しいかもしれません。それを「当然だ」と切り捨てる経営者も中にはいるでしょう。一方で一部の社員は、「日本の会社は株主配当に重きを置き過ぎている」と言って、経営者を非難するでしょう。しかし経営者には経営者の言い分があるかもしれません。こういった双方の言い分というものは、なかなか統計からは見えて来ないものです。それで双方が誠意をもって相手の話に耳を傾けなければ、相互理解は深まらず、分断が深まるだけです。ですから生の声に耳を傾ける事は大切なのです。
 
 この点で私は海外で会社を経営している事から、色々な国の「生の声」を拾い上げる事ができます。例えば私は香港にも会社を持っていますが、香港のホワイトカラーの人達の賃金は日本よりも総じて高いのですが、その中でも賃金は上がっています。また私は今マレーシアにおり、ここでも会社を経営していますが、ここは新興国の為、賃金の上昇率は非常に高いものがあり、毎年ベースアップをしなければ社員がどんどんと退職していってしまいます。加えて中東や欧州にも沢山の取引先がいます。このような様々な国の様々な立場の人と仕事上の接点を持っているという点で、確かに私は人々の生の声に耳を傾け、それを日本の状況と比較する上で有利な立場にいると言えます。
 
 それで今日は「日本の賃金は上がるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、これまでの日本の賃金がどのように推移してきたのかを振り返ります。次に海外の統計を通して、日本の賃金の異質さを確認すると共に、なぜ賃金が上がらないのか、その理由を深掘りしていきます。更に私自身の海外での会社経営の経験を踏まえながら、今後の日本がどのような方向で進むべきなのか、そしてその中で個人はいかにして稼ぐ事ができるのか、その考察を述べていきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

ここから先は

6,971字 / 8画像
マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?