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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第55回 日本のインフレはどこまで続くのか?

 2023年5月19日、総務省は4月の消費者物価指数(CPI 2020年=100)を発表しました。これによりますと、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数は104.8となり、前年同月比で3.4%も上昇しました。このように今の日本は着実にインフレのトレンドに入っている訳ですが、少し前まではデフレが問題視されており、それが目に見える形で明らかに反転し始めたのは2022年のロシアとウクライナの開戦以降でした。戦争の影響による資源高や、円安による輸入品価格の高騰により、今も日本ではインフレ基調が続いています。
 
 ただ政府はこれまでインフレ目標を2%に設定しており、現在の状況はその水準を大きく超えています。もちろん物価の高騰に賃金が追い付いていないのは大きな問題ですが、一方で延々とデフレが続くよりは、インフレ基調の方が健全な経済環境とも言えます。ですからインフレ=悪と考えるのではなく、バランスの取れた見方が大切です。
 
 ではどうすれば日本のインフレに関して、その実態を見定めることができますか?この点で統計は重要です。統計を調べれば、これまで日本のインフレ率がどのように推移してきたのか、その履歴を確認できます。それは過去の日本経済の問題点を明らかにしてくれると共に、現在の日本が抱える構造的問題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
 
 ただ日本の統計だけを見ても余り意味がありません。世界の統計も必要です。確かにこの20年、日本の物価は余り上がってきませんでしたが、その間にも海外の物価は大きく上昇してきました。これは資源や食品の大部分を輸入に依存している日本経済にとって、大きな影響を及ぼすものとなっています。日本が安い国になればなるほど、諸外国との購買競争で「買い負け」が起きる可能性も高くなるからです。ですから日本の統計に加えて、海外の統計を精査することも大切です。
 
 一方で統計からは見えて来ないものがあります。それは「国民の生の声」です。現在の日本はインフレに賃金上昇が追いつかず、実質賃金が下がり続けている状況です。ただ程度の差こそあれ、昨年のロシオとウクライナの戦争開始以降、同様の傾向が他の先進国にも新興国にも見られます。こういった世界各国の人々の生活がインフレによりどのような影響を受けているかについては、なかなか統計からは見えて来ないもので、現地の人々の「生の声」を聞いて初めて理解できます。ですから統計に加えて、生の声を聞くことは大切なのです。
 
 この点で弊社は香港とマレーシアの港湾で会社を経営していますが、世界各国に取引先がいます。その中でも主たる取引先は中東におり、中東各国は昨年以降、好景気に沸いている状況です。それも当然で、資源国は歳入の多くを石油の輸出に依存しているため、原油価格の高騰は景気回復に直結します。その結果、こういった国々では今も賃金上昇率がインフレ率を上回っている状況が見られます。私はこのような現状を目の当たりにしており、取引先を通して現地の方々から直に話を聞くことも出来ているため、「生の声」に耳を傾けるという点で、確かに有利な立場にいます。
 
 それで今日は「日本のインフレはどこまで続くのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、過去の日本におけるインフレ率の推移を振り返ります。次に海外の統計を通して、世界的なインフレの傾向を俯瞰すると共に、日本のインフレの特異性についても考えます。最後に私自身の海外での会社経営における経験を踏まえながら、今後の日本のインフレの傾向について考察すると共に、その中で個人がどのように自分の資産を運用すべきなのかについて、提言を述べたいと思います。特に個人で投資を行っている方には、是非お読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
  

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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