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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第29回 スリランカは中国の餌食になったのか?

 最近スリランカの事をニュースで見る機会が増えたと感じるかもしれません。現在スリランカは債務不履行に陥っており、1948年の独立以来、最大の危機に面しています。この点で中央銀行は経済を潰さない為に主要金利を14.5%という異次元の高さに設定していますが、それでもインフレ率は驚異の30-40%に達してしまっており、既に打つ手が無くなってきています。正にハイパーインフレが起きている真っ最中であり、スリランカ・ルピーは紙切れになろうとしています。
 
 では何故スリランカはこの様な窮状に陥ってしまったのでしょうか?殆どの報道では、その理由が「中国の債務の罠によるものだ」と指摘されています。確かにスリランカは債務を返済できなくなった結果、南部のハンバントタ港を中国企業へ99年間という超長期にわたり貸借せざるを得なくなりました。この間に中国側が港を軍用化するのではないかとも危惧されており、事態は予断を許さない状況になっています。
 

 
 この点で歴史を紐解くとスリランカと日本の関係は非常に深く、スリランカと中国のそれよりも遥かに長い期間にわたり友好関係を築いてきました。ですから現在スリランカは窮地に陥っていますが、この機会に日本が有効な仲裁策を提示できれば、アジアにおける日本のプレゼンスが強まる可能性もあります。それで日本はスリランカの事を決して対岸の火事の事の様に捉えるべきではありません。
 
 では今、日本はスリランカに対して何ができますか?この点で統計を調べる事は有益です。統計は雄弁です。統計を調べれば、日本とスリランカの関係がどのようにこれまで進展してきたか、その実態を知る事ができます。またその統計は、現在両国間で抱える課題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
 
 ただ一方で日本の統計だけを見ても余り意味がありません。世界の統計に目を向ける必要があります。特にスリランカは日本や中国だけでなく、インドや中東諸国とも非常に深い関係にあります。近年スリランカでは中国の影響力が大きくなってきましたが、その間に諸外国はどのようにスリランカと対峙してきたのでしょうか?こういった疑問は世界の統計を調べる事で見えてきます。そしてそれは現在のスリランカの世界における正確な立ち位置も教えてくれるでしょう。ですから世界の統計を調べる事も重要なのです。
 
 ただし統計だけでは見えて来ない分野があります。それはスリランカで暮らす人々の実際の生活です。特に2009年に内戦が終結して以降、スリランカの経済は力強く伸長を続けてきました。平たく言えば、彼らは豊かになったのです。それにより人々の実際の生活はどのように変化したでしょうか?更に現在は経済危機に陥っている訳ですが、それにより人々の生活はどのような影響を受けていますか?当然ながらこういった点は統計からは見えてきません。人々の話に耳を傾けて、初めて理解できる事です。ですから統計だけでなく、人々の声に耳を傾ける事は肝要なのです。
 
 この点で私は海外の港湾で会社を経営しており、スリランカにも複数取引先がいます。そして実際に弊社のコンテナはハンバントタ港にも行き来があるため、その現状もリアルタイムで知る事ができています。恐らくハンバントタ港の様子については、ニュースで聞く事はあっても、そこを実際に見て、ハンバントタ港にある会社と仕事をした事がある日本人は相当少ないはずです。私はその現状をこの目で見て、更にローカルの取引先からこの耳で話を聞く事が出来ているという点で、スリランカの問題を語る上で確かに有利な立場にいると言えます。
 
 それで今日は「スリランカは中国の餌食になったのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本とスリランカの関係がどのように進展してきたのかについて振り返ります。次に世界の統計を通して、スリランカがどのように経済成長を遂げてきたか、そこに各国の思惑がどのように関与してきたかを考察します。最後に私自身の経験も含めながら、危機に陥ってしまったスリランカに対して、今日本が何を行うべきかについても論考していきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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