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Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第69話 一夫多妻制の現実

前回の話はこちらから
 
https://note.com/malaysiachansan/n/ndc5a5f2e92dc
 
 この話は2022年まで遡る。マレーシアのポートクランでコンテナリース会社を経営する氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、この日、シャーアラムという地域を車で走っていた。シャーアラムはクアラルンプールの西方に位置するマレーシア屈指の工場街で、日本ペイントやパナソニックなどの日系企業の工場も数多くある。
 
 そしてその工場街の一角に、氷堂のクライアントであるフセインの会社はあった。フセインは国際貿易の物流会社を経営しており、その年商は1億リンギット(約30億円)に及ぶ。氷堂はこれまでフセインと2か月余りにわたり、コンテナリースの契約について交渉を続けていたが、ようやく契約の締結に至った。そしてこの日は待ちに待った約定日だった。
 
 氷堂の車の助手席にはカイルディンが座っていた。カイルディンは氷堂の会社のCOOで、氷堂が2016年にマレーシアで会社を立ち上げた際に、地場の物流会社から破格の待遇でヘッドハンティングしてきた大物だ。それ以降、氷堂とカイルディンは二人三脚で事業を拡大させてきた。今回のフセインの会社との取引をまとめられたのも、間違いなくカイルディンがいたお陰だ。
 
 さて車を走らせること30分、氷堂とカイルディンはシャーアラムの市街区に着いた。この辺り一帯は、見渡す限り倉庫と工場が続いている。
 

 
 氷堂はフセインの会社の駐車場に車を停めた。するとフセインの方も二人の到着を待っていたようで、到着するなり彼らを会議室へと温かく迎えた。そして言った。
 
「リツさん、カイルディンさん、今日はわざわざ足を運んで下さり、本当にありがとうございます。今年は上海のロックダウンの影響で、コンテナが返却されずに困っていたんです。そんな中、御社がリース契約を申し出て下さったお陰で本当に助かりました」。
 
 それに対してカイルディンも言葉を返す。
 
「こちらこそお役に立てたのであれば何よりだよ。もうフセインとは20年来の付き合いだからな。こうやって立場は変わっても、一緒に仕事をできるのは嬉しい限りだね」。
 
 カイルディンの言葉を受けて、フセインも言った。
 
「本当にそうですね。ここからが我々のスタートです。そうだ、今週の日曜日の夕方はお忙しいですか?もし宜しければ、我が家でバーベキューをやりませんか。是非お二人をご招待したいと思います。契約を締結したお祝いをしましょう。私の家族も参加しますので」。
 
 急なバーベキューの誘いに少し驚いたが、それでも貴重でありがたい機会だ。それで今度は氷堂が答えた。
 
「お誘いに感謝します。私の予定は空いていますので、是非お伺いさせてください。フセインさんのご家族にお会いできるのも楽しみにしています」。
 
 そう言って氷堂は頭を下げた。しかし横にいるカイルディンは、少し表情が曇っている様に見えた。その後も30分ほど雑談をして、氷堂とカイルディンはフセインの会社を後にした。
 
 
 さて帰りの車の中だった。カイルディンは言った。
 
「ようやくここまで来ることができたな。フセインには感謝だな。だがな、さっきバーベキューに誘われただろ。あの場でリツが快諾してしまったから、俺も一応行くけれど、本当は余り行きたくないんだよ」。
 
 意外なカイルディンの言葉に、氷堂は言葉も答える。
 
「え、そうなんだ。確かに顔色が少し曇っている様に見えたから、気にはなっていたんだけど」。
 
 するとカイルディンはしばらく黙り込んでしまった。5秒くらい経っただろうか。ようやく口を開いた。
 
「実はな、フセインには奥さんが二人いるんだよ。フセインは平日を一人目の奥さんの家、週末を二人目の奥さんの家で過ごしている。今回週末に呼ばれたという事は、二人目の奥さんの家に呼ばれたという事だ。そしてさっきも言ったが、俺はフセインとは20年来の付き合いで、一人目の奥さんの事も良く知っている。だから少し気まずいんだよ。まぁマレーシアでは一夫多妻が認められているからな。最近は件数が減ってきたとはいえ、それでも年間1000件以上は重婚の申請があるんだよ」。
 
 氷堂は驚いた。マレーシアにも一夫多妻があることは知っていたが、実際に当人に会うのは初めてだったからだ。同時に色々な疑問が浮かんできた。それぞれの夫婦関係は上手くいっているのだろうか?夫はどうやって金銭的および時間的に両者に力を配分しているのだろうか?何よりも、なぜ一人目の妻は、夫が二人目の妻と重婚することを了承したのだろうか?氷堂はこの目でそれを確かめたいと思った。しかしその後に氷堂が目にしたのは、一夫多妻を巡る複雑で、解を求める事ができない根深い社会背景だった。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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