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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第76回 金は本当に安全資産なのか?

 2024年4月3日、米国ニューヨーク商品取引所では、金の先物価格が1オンス2,315ドルという史上最高値を更新しました。これは前日よりも1.45%も高い金額で、わずか1か月半で15%以上も上昇したことになります。実際、2024年に入ってからも金価格は上昇を続けており、非常に堅調な相場が見られます。
 
 ではなぜ金価格は上昇しているのでしょうか?それは金が「安全資産」と考えられているからに他なりません。特に2023年10月に生じたイスラエルとハマスの戦闘以降、中東情勢は悪化しており、守りの資産としての金に人気が集まっています。加えて各国の中央銀行もポートフォリオを組みなおしており、米ドルを減らして金を買い増す傾向が見られます。このような複合的な理由から、金価格の上昇は続いているものと推察されます。
 
 考えてみますと、金は世界で唯一無二の資産です。紙幣や株券とは異なり、金はそれ自体に資産としての価値があります。また金価格の動きが、他の資産の価格にも影響を与えます。こういった背景を鑑みるならば、金取引についての基本的な知識を身に着けておくことは、ビジネスパーソンにとって非常に有用であるに違いありません。
 
 では今後、金価格は上昇しますか?それとも下落しますか?当然ながら正確な予測は不可能です。しかしながら、予測を立てる上で、統計を調べることは役に立ちます。これまで金価格はどのように推移してきましたか?それは株や債券の価格とどのように連動してきましたか?統計を調べれば、こういった質問に対する正しい答えを得ることができます。それは過去の金投資の強みや弱みを理解すると同時に、現在の世界経済が抱える課題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
 
 一方で統計を調べるだけでは不十分です。世界情勢にも精通する必要があります。なぜなら金は数ある資産の中でも、特に世界情勢の影響を受けやすく、情勢が悪化すれば価格は上昇し、逆に安定すれば下落するからです。それで統計に加えて、国際社会が抱える地政学的知見を深めるならば、今後の予測を立てやすくなるのと共に、投資に伴うリスクもヘッジしやすくなります。それ故に世界情勢に精通することは重要と言えます。
 
 ただ統計や世界情勢からは見えてこない分野もあります。それは金価格が人々の生活に及ぼす影響です。日本のような国にいると見えづらいですが、通貨が安定しない途上国や新興国においては、金を定期的に購入する人たちが一定数います。こういった国々では、金価格が割安になったり、逆に当地の通貨が不安定になったりすると、貴金属店に行列ができることもしばしばです。このように金価格は人々の日常生活とも密着に関連しており、それに接する人たちの「生の声」は、統計や世界情勢からは見えてきません。それでこういった側面についても考慮することは大切です。
 
 この点で私は香港およびマレーシアで会社を経営していますが、このような諸外国の一般庶民の金に対する動向を、これまでこの目で見てきました。加えてコンテナリースは金融商品としての性格も持ち合わせていますが、顧客はポートフォリオを形成する上で、安全資産として金を含めることも多く、彼らの投資感覚も目の当たりにしています。それで私はこの「金の資産価値」という問題を語る上で、確かに有利な立場にいると言えます。
 
 それで今日は「金は本当に安全資産なのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に統計を通して、これまで金価格がどのように推移してきたのかを振り返ります。次に世界情勢を俯瞰して、過去にどのような局面で金価格が上昇もしくは下落したのかを考えます。最後に私自身の海外における会社経営の経験も含めながら、今後の金価格の推移を予想すると同時に、金を投資対象にすることの意義について考察を述べたいと思います。株式投資などの資産形成に励んでおられるビジネスパーソンの皆様には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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