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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第18回 日本の失業率は高いのか?

 日本は不況が続いています。特にコロナ禍では特定の業種に廃業が目立ち、失業を余儀なくされた方もいます。しかし世界と比べるならばどうでしょうか?一般的に言って、日本の失業率は海外の失業率と比較して非常に低い部類に属します。そして「日本は景気が悪い」と言われていますが、失業率だけを見るならば、日本より数値が悪い国が無数にあるのも事実です。一方これに対して、「日本と海外では失業率の算出方法が異なるために、こういった数値のズレが生じている」と主張する意見もあります。この様に失業率と景気の相関性に関しては、様々な人が様々な意見を出しており、統一した見解を得るのが難しい状況です。

 ではどうすれば失業率について実態を知る事ができるのでしょうか?この点で統計は雄弁です。統計を調べれば、これまでの日本の失業率の推移を知る事ができます。この推移を調べる事で、失業率と景気との関連性を正しく理解する事が出来るかもしれません。併せて、今後の予測も立てることができるでしょう。

 一方で日本だけの統計を見ても仕方ありません。海外の統計も調べる必要があります。特に2000年代以降、世界はグローバル化が進みました。サプライチェーンは世界中切っても切れない関係にあり、一国の経済が他国の経済に及ぼす影響も大きくなっています。これは失業率に関しても同様で、リーマンショックに代表されるような世界的な不景気が生じると、失業率がグローバルに伝播する事象も見られます。ですから日本の統計に加えて、世界の統計を調べる必要もあります。これにより、今の日本の世界における立ち位置をより正しく理解する事ができます。

 しかし統計だけでは見えて来ない分野もあります。それは「失業者の生活」です。例えば日本では失業しても失業保険が貰えたり、要件を満たせば生活保護の受給対象になったりするなどして、失業期間を生き延びる事が出来るケースが殆どです。一方で途上国や新興国は異なります。このような国ではセーフティーネットがないため、失業率が増加すると併せて犯罪も一気に増加し、それが治安の悪化に直結します。それでこういった「失業者の生活」というものは、残念ながら統計だけでは見えてきません。その国の失業者と接点を持って、初めて理解することができるものです。

 この点で私は、海外の複数の国に跨る形で港湾関連の会社を経営している事から、様々な国に取引先がいます。そして彼らからリアルタイムでその国の景気や雇用動向について情報を得る事ができます。加えて弊社は港湾の会社ですが、港湾荷役の仕事というものは多くの国で、低賃金労働者が集まる職場として知られています。つまりそこで働く人々は常に失業する危険と隣り合わせで生きています。私はこういった環境で働く労働者と世界中で直に接している為、失業の問題を俯瞰する上で確かに有利な立場にいます。

 それで今日は「日本の失業率は高いのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、これまでの日本の失業率の推移を調べます。次に世界の統計を通して、日本における失業率が世界のそれと比べてどの様に推移してきたかを考えます。加えて私自身の外資系企業での勤務の経験や、港湾の会社を経営する中で目の当たりにしてきた現実を通して、それらの統計を裏打ちしていきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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