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Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第34話 国際援助の裏側の悲しい歴史

前回の話はこちらから
 
https://note.com/malaysiachansan/n/n9a7d5b10cdcb?magazine_key=m0838b2998048
 
 この話は2019年まで遡る。2016年にマレーシアでコンテナリース会社を立ち上げた氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、3年で事業を軌道に乗せた。氷堂の会社はコンテナの短期リースを専門に扱っている。この点で大手リース会社は長期リースを基本的に扱っており、その契約期間は5~10年に及ぶのだが、彼らの取引先は大手船社が多く、安定した収益が約束されている。一方で氷堂の会社のような短期リース会社は契約期間が3~12か月となっており、そのクライアントも独立系船社から地場の物流会社に至るまで多岐に及んでいた。こういった取引先というのは資金が回収できないリスクもあり、大手リース会社は敬遠するものなのだが、氷堂の会社は積極的に営業活動を行う事によって幾つもの取引先を開拓していった。
 
 この営業活動において陣頭指揮を執っていたのが、氷堂の会社のCOOであるカイルディンだ。カイルディンは氷堂の会社に入社する前には、大手国際物流会社で営業責任者を長年務めていた。そのマレーシアの港湾界の大物とも呼べる彼を、氷堂は破格の待遇でヘッドハンティングした。そしてカイルディンも氷堂の期待に応えるべく、幾つもの取引先を開拓していった。そのカイルディンが、ある朝氷堂を呼び止めた。
 
「リツ、また新しい案件が入ってきたぞ。相手は東ティモールの物流会社だ。コンテナが足りなくて困っているらしい。近く東ティモールまで行けるか?」
 
 唐突に出た「東ティモール」という言葉を聞いて、氷堂は少し困惑した。氷堂も言葉を返す。
 
「東ティモール?それは意外なところから話が来たね。僕は東ティモールについてはあまり詳しく知らないんだけど、そう言えば随分と長い期間にわたって内戦をしていたよね。治安とかは今は問題ないのかな?」
 

 
 氷堂の質問にカイルディンも答える。
 
「リツ、治安ならば問題ない。2006年に暴動が起きて以来、大きな治安の乱れは生じていない。そして今はものすごい勢いで開発が進んでいて、国の経済も右肩上がりになっている。ただ物流網が脆弱で慢性的なコンテナ不足に陥っているらしい。今回の案件自体はそれほど大きくはないが、将来性はあると思うぞ。」
 
 カイルディンの説明を聞いて氷堂は少し安心した。そして言った。
 
「それなら良かった。じゃあ早速だけど先方と連絡を取って、僕の方で来月頭くらいには訪ねてみるよ。東ティモールか。僕は行くのが今回初めてなんだけど、何か気を付けた方が良い事ってあるかな?」
 
 それに対してカイルディンは答えた。
 
「まぁ今回の話は前職の物流会社から回ってきた話なので、俺も東ティモールには行った事がない。なので何とも言えないところなんだが、先日スカイプで会議をした時の先方の社長の印象は大変良いものだった。また調べたところ特に財務状況も支障なさそうだし、大きな問題は無いだろう。ただなぁ…一点だけ気掛かりな事があったんだよな…」
 
 そう言うとカイルディンは少し口ごもっていた。それを見かねた氷堂は尋ねる。
 
「カイルディン、何が気掛かりなのかな?教えて欲しいんだけど。」
 
 カイルディンはまだ何かを考えている様だったが、意を決したように答えた。
 
「いや、実はだな、先方に『うちの会社のボスは日本人だ』って事を伝えたんだよ。そうしたら明らかに表情が曇っている様子だった。俺はそれが気になったので理由を尋ねてみたんだが、先方も気を取り直した様で、『大丈夫です。問題ありません。気にしないで下さい』と言ってきた。だからその理由が何だかは分からないんだがな。まぁ、そんな事があったって事だけは一応伝えておこうと思ってな。」
 
 氷堂はそれを聞いて少し嫌な予感がした。ただここで立ち止まっても始まらない。それで早速氷堂は東ティモール行きのチケットを手配する事にした。しかしその後に氷堂が東ティモールで目にしたものは、悲惨な内戦の傷跡と、そこに日本が関わっていた悲しい歴史だった。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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