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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第12回 日本は少子化問題を解決できるのか?

 日本では少子化が進んでいます。特にこのコロナ禍で出生数が更に減少したと言われており、既に状況は予断を許さないレベルに達しています。この少子化対策は、日本において最も重要かつ最も難しい問題と言っても過言ではないでしょう。

 しかし一方で次のように主張する人たちもいます。「日本は確かに少子化が進んでいる。しかしその一方で他の国々でも出生率は頭打ちになっており、日本だけの問題ではない。だからそこまで気にする必要もないはずだ」。確かに多くの先進国で出生率は頭打ちになっています。この点で日本が少子化のトップランカーである事は間違いありませんが、その一方で少子化は世界共通の問題とも言えます。ですから、上記の主張は一見正しく思えるかもしれません。

 しかし日本特有の問題があります。それは「出生率が減少に転じている他の国では、GDPが引き続き伸長している」という事実です。通常GDPというものはその性質上、人口が増えれば伸びますし、人口が減れば頭打ちになるか減少に転じます。この点で例えば韓国や台湾などでは、少子化が進んでいるにもかかわらず、GDPは伸長を続けています。何故でしょうか?これには二つ理由があります。一つ目の理由は生産年齢人口です。韓国や台湾は少子化が進んではいるものの、まだ生産年齢人口の減少局面までは至っていません。一方で日本は既に生産年齢人口も減少し始めており、平たく言えば「お金を稼ぐ人」が減っている状態です。これがGDPの伸長を妨げる一つ目の理由です。

 ただそれ以上に深刻なのはもう一つの理由です。それは「日本は産業構造が変わっていない」という事実です。韓国や台湾は半導体や電気機器の輸出を始めとして、産業構造を内需から外需へと変換させてきました。その結果、今後少子化が進んで人口減少局面に入っても、GDPの伸長を期待できます。市場は国内ではなく世界だからです。一方で日本は昔から内需国であり、強い内需が成長の源泉になってきました。しかし内需は人口の減少と共に否が応でも落ち込みます。そこで本来であれば外需を強めていく必要があるのですが、日本は旧態依然とした内需中心の産業構造からの転換が進んでいません。そのため「少子化=GDPが伸長しない」という非常に悪い循環に陥っています。このような環境下で少子化が更に進めば、20~30年後には日本という国が体を成さなくなってしまうでしょう。

 ではどうすれば良いのでしょうか?この点で統計は雄弁です。統計を調べれば、日本の少子化がどれほど深刻であるかを理解できます。特に日本は2回のベビーブームを経て人口が大きく伸びた時期もありましたが、ある時期から少子化に歯止めが掛からなくなりました。統計はその契機を浮き彫りにしてくれると共に、今後の方向性に関しても教えてくれるかもしれません。

 一方で日本の統計だけを見ても余り意味がありません。海外の統計も重要です。なぜなら少子化問題というのは、日本国内だけの問題ではないからです。言うまでもなく世界経済は繋がっており、今後世界人口は更に増えると予想されています。日本が少子化で労働人口が減る中で、海外の人口が増えていくならば、日本国内で不足する労働力を移民として海外から取り入れる必要に迫られる可能性も高くなります。

 加えて統計だけでは見えて来ない面もあります。例えば私はマレーシアで生活していますが、マレーシアは日本に比べて出生率が高い事で知られています。更にマレーシアの国全体の平均年齢は28歳という若さです。日本の平均年齢が48歳である事を考えると、まるまる1世代分マレーシアの方が若いという事になります。ここで生活していると、子供が本当に多く、そして活気がある様子を観察できます。どこのスーパーマーケットに行っても子供が大勢おり、日本の様な高齢者の貯まり場の雰囲気はどこにもありません。こういった言わば「空気感」の様なものは、統計には現れないものです。

 この点で私は複数の国に跨る会社を経営している事から、海外の空気感を感じ取るのに有利な立場にいます。例えば弊社の社員の中には発展途上国や新興国の出身者もおり、彼らから「生の声」を聞くことができます。加えて仕事柄私自身も世界中の港に出張に行き、普通は日本人が行く機会の無いような国にも足を運んできました。そういった取引先のローカルの自宅を訪問し、滞在させて頂いた事も何度もあります。そして彼らとは引き続き連絡を取り合っており、彼らの「生の声」を聞く事ができています。ですからこの少子化の問題を俯瞰する上で、私は有利な立場にいます。

 それで今日は、「日本は少子化問題を解決できるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、現在の日本の少子化がどこまで深刻化しているかを考えます。次に世界の統計を通して、少子化に関する日本と他国との比較を行いたいと思います。更に私自身の海外での経験を踏まえながら、世界の少子化問題の現状や、今後の日本が取るべき政策などを考察していきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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