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FED Monetary Policy Reportの要約 24年7月

(出所)
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/files/20240705_mprfullreport.pdf


インフレと金融政策

インフレは2023年に大幅に鈍化し、2024年も緩やかながら改善傾向にあるものの、依然としてFRBが目標とする2%を上回っています。個人消費支出(PCE)価格指数は5月時点で前年比2.6%の上昇と、ピーク時(2022年6月)の7.1%からは大幅に低下しましたが、依然として目標を上回っています。エネルギー価格の上昇や変動の大きいカテゴリーでの価格上昇がインフレ抑制の妨げとなっています。

FRBは、インフレを抑制するため、2023年7月以降、フェデラルファンド金利の目標レンジを5.25%~5.50%に維持しています。金利の引き下げは、インフレが持続的に2%に向かって低下していると確信できるまで行わない方針です。

労働市場

労働市場は、2024年前半にかけて再均衡が進み、堅調さを維持しています。求人数は減少傾向にあり、労働供給は増加しています。失業率は4.0%と歴史的に低い水準にとどまっており、労働市場は逼迫していますが、過熱状態ではありません。名目賃金の上昇率は鈍化しているものの、生産性向上の傾向を踏まえると、依然として2%のインフレ率と整合的なペースを上回っています。

経済活動

実質GDP成長率は、2023年後半の力強いペースから減速し、2024年第1四半期は1.4%の緩やかな成長となりました。純輸出と在庫投資の減少が主な要因ですが、個人消費、設備投資、住宅投資を含む国内民間最終需要は引き続き堅調です。住宅投資は、中古住宅販売の増加と一戸建て住宅建設の活発化により、第1四半期に急増しました。

金融状況

金融状況は全体的にやや引き締まっているようです。国債利回りと市場が織り込むフェデラルファンド金利の予想経路は上昇し、株価は上昇しています。家計や企業への信用供与は引き続き可能ですが、金利は高止まりしており、融資活動の重しとなっています。銀行融資のペースは鈍いものの、2024年の最初の5カ月間で増加しています。

金融安定

金融システムは健全かつ回復力を維持しています。非金融企業や家計のバランスシートは依然として堅固で、信用残高の対GDP比は20年ぶりの低水準です。しかし、資産市場では社債スプレッドが縮小し、株価は予想収益を上回るペースで上昇しており、住宅価格は市場賃料に比べて依然として高止まりしています。銀行セクターでは、一部の銀行で固定金利資産の評価損が依然として大きく、商業用不動産ポートフォリオの一部がストレスに直面しています。

国際情勢

海外経済は、2023年後半の停滞を経て、2024年第1四半期に改善したと考えられます。先進国では、インフレ率の低下が実質家計所得を改善させ、成長率は緩やかな水準に戻りました。新興国市場では、輸出の回復とハイテク製品に対する世界的な需要の高まりが成長を支え、特に中国の第1四半期の活動は顕著でした。

株式市場のバリュエーションとリスク

FRBは、経済活動の低迷にもかかわらず、株式市場のバリュエーションが上昇していることを指摘しています。特に、テクノロジー株が大きく上昇しており、2024年初から大幅な上昇を見せています。これは、インフレが大幅な景気後退なしに低下するという楽観的な見通しや、堅調な企業収益が背景にあるとFRBは考えています。

しかし、FRBは同時に、バリュエーションの上昇が、期待収益の伸びを上回っていること、そして、いくつかの指標が割高な水準にあることを指摘しています。具体的には、株価収益率と期待実質利回りの差で計算されるエクイティリスクプレミアムが2007年以来の最低水準に低下していること、企業の社債スプレッドが縮小し歴史的な低水準にあることなどを挙げています。

これらの状況から、FRBは、株式市場のバリュエーションがファンダメンタルズと比較して高くなっており、潜在的な脆弱性を示していると結論付けています。

VIX指数

VIX指数はS&P 500指数の予想変動性を示す指標であり、投資家の先行きに対する不透明感や懸念を反映しています。VIX指数が低いということは、投資家が市場の先行きを楽観視していることを意味します。一方、株価指数が過去最高値(ATH)を更新しているということは、投資家が積極的に株式を購入していることを示しています。

VIX指数が低水準で、かつ株価指数がATHにある状況は、一見すると市場が非常に好調であるかのように見えます。しかし、注意すべき点がいくつかあります。

  • 市場の過熱感: VIX指数が低いということは、市場が将来のリスクを過小評価している可能性があります。市場が過熱し、バブルが発生している可能性も考慮に入れる必要があります。

  • 急落のリスク: 市場心理は急速に変化する可能性があり、楽観的な見方が悲観的な見方に転じると、株価が急落するリスクがあります。

  • ボラティリティの急上昇: VIX指数は通常、株価が下落すると上昇する傾向があります。したがって、VIX指数が低い状態が続いた後に急上昇する可能性があり、ポートフォリオに大きな影響を与える可能性があります。

これらのリスクを考慮し、市場の動向を注意深く見守りながら、適切なリスク管理を行うことが重要です。

金融システムの安定性への影響

FRBは、株式市場のバリュエーションの上昇が、金融システムの安定性に対する潜在的なリスクを高めていると見ています。資産価格がファンダメンタルズから乖離するということは、市場心理の変化や経済状況の悪化によって、価格が急落する可能性があることを意味します。

特に、FRBは、レバレッジを高めた投資家の存在に注目しています。レバレッジを高めた投資家は、市場の急落時に多額の損失を被り、ポジションの解消を迫られる可能性があります。このポジション解消がさらなる価格下落を引き起こし、市場の混乱を招く可能性があるのです。

FRBの対応と今後の展望

FRBは、金融システムの安定性を維持するために、市場の動向を注意深く監視し、必要に応じて適切な措置を講じる構えです。具体的には、金融機関に対する規制や監督を強化し、過度なリスクテイクを抑えることが考えられます。

FRBはまた、市場参加者に対して、市場リスクを適切に評価し、リスク管理を徹底するよう促しています。市場参加者がリスクを過小評価し、過度なレバレッジをかけると、市場の安定性が損なわれる可能性があるからです。

FRBは、株式市場のバリュエーションが金融システムの安定性にとって重要なリスク要因であることを認識しており、引き続き市場の動向を注視していくと考えられます。

投資への示唆

FRBはインフレ抑制を最優先課題としており、インフレが2%の目標に向かって持続的に低下していると確信できるまで、政策金利の引き下げは行わない構えです。金利高が長期化する可能性も念頭に置きつつ、金融市場の動向や企業業績、国際情勢などを注視していく必要があります。

不動産市場は、住宅ローン金利の上昇や住宅価格の高騰により、購入意欲が抑制されています。中古住宅市場は供給不足が続いていますが、新築住宅市場は堅調に推移しており、建設も活発化しています。

株式市場は、堅調な企業業績やインフレが景気後退を引き起こすことなく低下するという楽観的な見方に支えられ、年初来大幅に上昇しています。ただし、金融引き締めが続く限り、ボラティリティが高まる可能性も考慮する必要があります。

海外経済は、全体的には改善傾向にあるものの、中国の不動産市場の低迷やウクライナ紛争、中東情勢など、下振れリスクも存在します。新興国市場への投資は、先進国金利の上昇による資金流出リスクにも留意が必要です。

全体として、2024年7月時点でのFRBの金融政策報告書は、インフレ抑制を最優先とするFRBの姿勢が明確に示されており、金融引き締めが長期化する可能性が高いことを示唆しています。投資家は、金利上昇リスクや景気後退リスクを考慮しつつ、企業業績や国際情勢などを注視し、慎重な投資判断を行う必要があります。

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