途上国の人々にとって、どちらが正義かではなく、自分たちを苦しめるこの戦争こそが最大の悪なのではないだろうか

 「民主主義諸国は専制体制との戦いのために、決起し始めた。平和と安全保障の側に、世界が立っていることは明白である」(バイデン大統領・一般教書演説)この演説から、アメリカがウクライナ戦争をどう位置づけているかがわかる。専制体制との戦い、ロシアの弱体化がこの戦争の目的であり、バイデンにとってクライナは将棋の駒に過ぎない。しかし、途上国の人々は、また新興国の人々は、そして世界はこの戦争をどう見ているのだろうか。

 私たちはロシアが国際社会の中で孤立していると思っている。しかし、実際はどうか。世界人口の42.7%を占める中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカといったBRICS諸国や非米新興諸国は、アメリカの脅しにもかかわらず、戦争や侵攻という言葉を使うことを否定し、ロシアへの非難や経済制裁も拒否し、中立の立場をとっている。

About 100 UN Diplomats Walk Out Of Address By Russia's Lavrov

サウジアラビアが主導するアラブ連盟もロシアを非難することを避け、「ウクライナ問題は話し合いで解決すべき」とする中立宣言の決議を出している。

Saudis, UAE Refuse To Take Biden's Calls To Discuss Ukraine Situation, Talk To Putin Instead

それだけでなく、国連事務局も職員あてのメールで、ウクライナの事態を「戦争」とか「侵攻」と呼ぶことを禁止し、公平性を保つために「紛争」とか「軍事攻撃」と呼ぶよう求めている。

 私たちが住む先進諸国では、世界中の誰もがこの戦争を「ウクライナ=善、ロシア・プーチン=悪」と考え、ロシアは国際社会から孤立しているかのように報道されているが、国際社会の大多数は「民主vs専制、ロシア=悪」という見方をせず、経済制裁にも否定的な立場をとっていることがわかる。

 では、BRICS諸国や新興国と言われる国々に住む人々や、アフリカをはじめとする途上国の人々は、このウクライナ戦争をどのように見ているだろうか。先日、次のような記事が目に止まった。

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 開発国連のグテレス事務総長は、先週、「食糧やエネルギー価格の上昇で貧困と飢餓が拡大している」と指摘。ウクライナ戦争に伴う戦乱によって、世界107カ国で17億人が深刻な打撃を受け、うち5億5300万人が貧困状態、2億1500万人が栄養不足との報告書を発表した。   

                 日刊ゲンダイ4/22(金)
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 このアントニオ・グテレス事務総長は、毎日新聞への寄稿で、このウクライナ戦争を途上国への静かな攻撃」と批判して即時停戦を呼びかけている。添付資料「ウクライナ侵攻は途上国への攻撃」を参照。

(注)FBにファイルが添付できませんでしたので、WEB参照のこと)

 これが途上国の考え方を代表しているだろうと思う。途上国を襲うこの食糧危機は、ウクライナ戦争が長引くにつれ、いよいよ深刻化していく。この戦争はウクライナ国内での軍事攻撃に伴う犠牲者よりも、途上国で貧困と飢餓で亡くなる人の方が圧倒的に上回る可能性が高くなっている。そんな途上国に住む人たちにとっては、この戦争のどちらが正義かが問題でなく、どちらが勝とうが負けようが関係なく、自分たちを苦しめるこの戦争こそが最大の悪に他ならない。私たちは、先進国の価値観(民主か専制か)の世界からだけでなく、もっと多角的にこの戦争を見る必要があると思う。

 世界は1日も早い停戦を望んでいる。しかし、ロシアの弱体化・専制との戦いを目的としているアメリカはこの戦争を止めようとしない。武器を送り続け、戦争が続くことを望んでいる。停戦を望む国際社会から孤立しているのは、むしろアメリカではないだろうか。そもそもこの戦争はアメリカによるNATOの東方拡大がもたらしたものであり、勢力範囲をめぐる米ロ大国間の覇権争いが招いた戦争だ。戦火の下で逃げ惑い殺されるウクライナ国民も、何のために戦うのかも知らず戦場に送られるロシアの若者たちも、その戦争の犠牲者に過ぎない。

 このバイデンとプーチンが始めた戦争は、最終的にはバイデン大統領とプーチン大統領が話をつけるしか終結の道はない。私たちがどちらが正義でどちらが悪かという観念に囚われる限り、どちらかが勝つか、どちらもが戦えなくなるかしかこの戦争を終わらせる道なくなり、私たちは戦争のエスカレーションという抜け出せない袋小路に陥ることになるだろう。核戦争が現実味を帯びてきた今、いかにしてこのウクライナ戦争を終わらせるか、そこに向けて人類の叡智を結集する必要があると思う。

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