北京オリンピックに対する外交ボイコットに思う

        目黒真実(元日本語教師/肺腺癌ステージ4bにて在宅療養中)

 外交ボイコット(北京オリンピック)を巡って次のような記事を目にした。
>>>
 岸田氏はそこで「民主主義や人権をはじめとする普遍的価値を重視している」と前置きした上で、民主主義の発展には一定の時間がかかるとし、「歴史的な経緯の積み重ねのなかでの各国の取り組みを尊重する」と述べた。 民主のあり方について、歴史的背景など各国の事情に配慮する姿勢を強調し、「民主か専制か」の二項対立でとらえるバイデン政権の政策とは明らかに異なる姿勢を示したと言える。
・・・・・・中略・・・・・・
岸田氏の煮え切らない姿勢にしびれを切らした安倍氏は、自民党最大派閥・安倍派の総会(12月9日)で「日本の意思を示すときは近づいてきている」と発言。外交的ボイコットを早期に決断するよう岸田氏に圧力をかけた。 岸田氏は自民党の右派議員連盟から出ているボイコット要求に対しても、「タイミングを見て、適切に判断する」とはねつけており、キングメーカーの安倍氏にとって面白いはずはない。
         BUSINESS INSIDER JAPAN12/22(水) 8:10
>>>


 岸田首相の「民主主義の発展には一定の時間がかかる」「歴史的な経緯の積み重ねのなかでの各国の取り組みを尊重する」というのは間違っていない。物事を「民主か専制か」の二元論でしか見られない安倍氏と比べて、岸田首相の発言の方が遥かに筋が通っているのではないだろうか。

 私がいつも思うのは、正しく人権外交をしなければ、とんでもない独りよがりな「正義」になってしまうということだ。例えば北朝鮮やアフガニスタン、イランへの経済制裁のように、その経済制裁で一番苦しんでいるのが、その国の政権ではなくて国民であること、そして飢餓の恐怖にさえさらされているのが、それらの国々の中でも更に貧しい国民だということを考えなければならないと思う。

 私はかつて、内モンゴル自治区の主都フフホト(呼和浩特)で、日本語学校を開くために、微力ながら協力してきた。そしてそこで多くのモンゴルの若者と交友し、彼らが故郷モンゴルを思う気持ちの強さを知った。私はマスコミが取り上げることのない内モンゴルのことを、以前から何かあるにつけ触れてきたが、今、その内モンゴルでは次のような事態が進んでいる。

 山陰中央新報によると、「中国政府が昨年秋から内モンゴル自治区の学校の授業で、モンゴル語を大幅に減らして中国語に変える同化政策を進め、抗議する人を大量に逮捕しているとも指摘。「言語が使えなくなって書物や文化に触れられなくなり、過去も未来も消されようとしている南モンゴルに関心を持ってほしい」と訴えた。 山陰中央新報12/19(日) 」とある。

 この会場で、モンゴルの留学生の一人が「北京オリンピックで、日本政府は外交ボイコットして欲しい」と発言している。その気持ちは痛いほどわかるし、私も中国政府の「一つの中華民族」の名の下に行われている同化政策には怒りを禁じ得ない。しかし、私がその場にいたら、「感情に任せて外交ボイコットやら経済制裁を言ってはならない」と、その留学生に言ったと思う。

 私はこの間、交友がある中国の友人や、内モンゴルで協力してくれた人に次のようなメールを送っていた。「日本の友人として、内モンゴルで起こっている事態は看過できない。中国政府は、民族平等を高らかに謳ったあの建国宣言を反故にするというのだろうか。民族平等なくして中華人民共和国なし、今日進められている一つの中華民族政策は必ず大きな災厄となって貴国を襲うことになることを危惧し、友として忠告したい」。彼らから返事はないけれど、気持ちは伝わっていると思う。

 こんな時にいつも思うのは、アフガニスタンで凶弾に倒れた中村晢医師ならどんな選択をするのだろうかということだ。どうすれば彼ら少数民族固有の文化と言語、尊厳を守っていけるのか、中村晢医師ならその道を教えてくれるのではないかと思ったりする。香港の民主派弾圧や、ウイグル族、モンゴル族への中華民族への統合政策(=同化政策)に対し、どう対応すればいいのかと、私は今も答えはわからないし、はっきり言って悩んでいる。

 私は安倍総理の「台湾有事は日米同盟の有事、すなわち日本の有事」発言を聴いた時、「まるでアメリカという”虎の威を借る狐”だな」と思った。日米同盟の軍事力で中国を封じ込めようとしたり、敵基地攻撃能力だとか何とか、日本が軍事力で中国に対抗しようなんて、愚の骨頂だと思う。今こそ、日本国憲法に基づく立憲平和外交とは何かが問われていると思うのだが、・・・・。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?