ウクライナのNATO加盟は、ほんとうに民意だったのか?

       目黒真実(元日本語教師/肺腺癌ステージ4bにて在宅療養中)

 「台湾を第二のウクライナにしないために」という問題を考えながら、台湾について調べていたとき、重大なことに気づきました。それは、ゼレンスキー大統領が言うところのNATO加盟が、ほんとうに国民多数の民意だったのかと言うことです。より正確に言えば、国民の多くが「ロシアと戦争となったとしてもNATOに加盟したい」と考えていたかということです。と言うのも、台湾の独立問題に関連して、次のような世論調査の結果が出ていることを知ったからです。(「聯合報民意調査センター」2010年から2019年まで10年間の平均値)です。<図表1>

 台湾民進党は党の綱領に台湾独立を掲げる政権政党ですが、現在、台湾独立を保留して現状維持の政策をとっています。その背景には図表1のように現状維持を希望する国民が50%近い現実があることも大きな理由ですが、最大の理由は、台湾が独立を宣言することで中国と戦争になることを回避するためだということができるでしょう。

 この中で、自分を「台湾人である」と感じている人たちが民進党支持、「台湾人でもあり中国人でもある」「中国人である」と考えている人たちが国民党とその他の政党支持と大きく色分けできると言われていますが、この図表1からわかるのは、台湾民進党を支持するからといって、台湾独立を必ずしも支持していないと言うことです。台湾の民意は、現状維持、戦争回避が大勢と言っていいのです。もしそれを無視して民進党が台湾独立を宣言するとしたら、それは民意に反するものということになります。それは民主主義ではないということです。

 ウクライナについて考えてみたとき、ゼレンスキー氏のNATO加盟は公約だったでしょうから、国民の多くがNATO加盟を支持していたと言えます。しかし、ゼレンスキー支持者の中で「ロシアと戦争になっても加盟を進めるべき」と考えていた人が果たしてどれほどいたのでしょうか。私は、もし国民投票が行われていたとしたら、台湾と同じように、現状維持を支持する声が一番大きかったのではないかと思うのです。当時支持率20数%のゼレンスキー氏の決断がロシアのウクライナ侵攻を招いたのは紛れもない事実で、その政策決定が果たして国民多数の民意を代表するものだったのか、正しい選択だったかどうか、私は大いに疑問があります。国民は政府に自らの命を白紙委任しているわけではありません。今、ゼレンスキー大統領は、NATO不加盟を口にし始めましたが、もっと前に戦争を回避する選択はできていたと思うのです。ここで問題になるのが、背後にあってクライナのNATO加盟を進めてきたアメリカとNATOですが、これに関しては別稿を要します。

 考えたくないことですが、台湾有事がもし発生して、米軍支援に自衛隊が派兵するかどうかという状況になったとき、自衛隊員や沖縄の人たちなど、国民の命に関わるような判断を政府に白紙委任して良いのかという問題があります。最低でも議会の承認が必要でしょうし、議会少数派の野党に政権の暴走を止める力はなくても、民意の力を結集すれば、戦争を止めることが可能ではないかと思うのです。その時私たちは「国民投票を実施せよ!」と呼びかけなければならないでしょう。これがウクライナが教えてくれるもう一つの教訓ではないかと思うのです。ウクライナは、民主主義の落とし穴を私たちに教えてくれているように思います。
<図表1>

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?